スイングを演奏する時に起こる問題を分析するために、リズムが持っているタイミングに関する要素を整理して説明してみました。
はじめに
スイングはオフビートを強調しながらずらすことで様々なニュアンスを演出する音楽です。
オフビートには複数の種類があります。8分音符/4分音符だけでなく16分音符/2分音符/全音符などの考えうる全ての音価での音符にオフビートが存在します。これらの様々な音価のオフビートについては 裏拍の大切さで説明しましたので参照して頂けましたら幸いです。
今回は8分音符についてのみ説明しますが、ここで説明することは4分音符/16分音符/… 等の全ての音価のオフビートについて適用することができます。まずは8分音符に関して理解を深めたあとで、他の音符に関しても応用して行きたいと思います。
またここで8分音符とは、スイングした3連符の上にできる8分音符のことを指します。
スイングのオンビート/オフビート
1拍を2等分したとき、先にできる音符をオンビート(8分音符表)、後にできる音符をオフビート(8分音符裏)と考えます。スイングは、このオンビートとオフビートの位置を変化させることで様々なニュアンスを演出するリズムです。
通常の音符ではオンビートとオフビートとの距離は1/2となります。スイングでは、上図の様にオンビートとオフビートの位置を2/3程度まで距離を取ることによって独特なニュアンスを演出します。
スイングは2人以上で演奏する
スイングは通常2人以上のアンサンブルで演奏します。独奏でも演奏できますが、その時には次節以降で説明するタイミングずれのない形で演奏されます。もちろん独奏で演奏してもスイングであることには違いがありませんが、スイングの醍醐味は二重奏以上の複数名でのタイミングずれと共に演奏されるリズムにあります。
スイングとタイミングずれ
2人以上の演奏者で演奏する時に大切なことは、それぞれの演奏者が必ずタイミングのずれを持って演奏することです。
スイングではこの様に2つのリズムが丁度ぴったりのタイミングで演奏されることは絶対にありません。スイングでは一般的には次のようにレイドバックを伴って演奏されます。レイドバック量
伴奏と主旋律の2つのパートがあるとすると、一般的に伴奏がやや早め、主旋律がやや遅めのタイミングで演奏されます。この時のずれの量のことをここではレイドバック量と呼びます。
オフビートもたり量
レイドバックとは別に、オフビートだけが遅い方向に移動することをここではオフビートもたりと呼びます。
オンビートはしり量
レイドバックとは別に、オンビートだけが早い方向に移動することをここではオフビートはしりと呼びます。
絶対オフビート/オンビート空隙量
レイドバック量が増え、オフビートもたり量が増え、オンビートはしり量が増えていくと、ある拍のオフビートの位置はその次の拍のオンビートの位置に近づいていきます。このときオフビートとオンビートの間の隙間の距離のことを絶対オフビート/オンビート空隙量と呼びます。
相対オフビート/オンビート空隙量
セクションAとセクションBがあるとき、セクションAのレイドバック量/オフビートもたり量/オンビートはしり量が増えたとき、そのセクションAのオフビートとそのセクションBのオンビートとの距離のことを相対オフビート/オンビート空隙量と呼びます。
相対オフビート/オンビート追い越し
あるセクションAとあるセクションBの相対オフビート/オンビート空隙量が減少していったとき、最終的にセクションAのオフビートとセクションBのオンビートは、重なります。更に相対オフビート/オンビート空隙量が減少するとセクションAのオフビートはセクションBのオンビート位置を超えます。これがオフビート/オンビート追い越しです。
例えば、上記の様にレイドバック量が大きいとします。
レイドバック量が多い時に更にオフビートもたり量が増加したとします。すると ───
─── オフビートが元々のオンビートの位置を超えてしまします。
スイング聴覚錯覚
相対オフビート/オンビート追い越しが起こると、拍の長さが実際の拍の長さ以上あるような非現実的な耳の錯覚を生みだします。何故かというと、セクションA(伴奏)のセクションのオンビートから、 セクションB(主旋律)のオフビートまでの距離が人間の耳に届くからです。
他にも、レイドバック量/オフビートもたり量/オンビートはしり量の三要素の組み合わせによって、テンポが速くなった様な錯覚を生みだしたり、テンポが速いのに優雅な響きを伴ったり、と言ったスイング独特な様々な奥行きのあるニュアンスを生みだします。
まとめ
スイング聴覚錯覚が、拍の速度感/疾走感/前進感を生みだし、同時に拍の重さや柔らかさを生みだします。このスイング聴覚錯覚を生み出す原動力となるものが、レイドバック量/オフビートもたり量/オンビートはしり量のスイング三要素です。スイング三要素が相対オフビート/オンビート空隙量を作り出します。そして相対オフビート/オンビート空隙量がスイング聴覚錯覚を生み出す原動力となります。
これらの理論をつかってリズムのタイミングで起こる様々な問題を分析することができます。その一例がオンビート・スリップストリーム問題です。
オンビート・スリップストリームについては、
最初に聞いた音が1拍目表に聴こえる病とその症状 ─── 縦乗りを克服しようシリーズその36
オンビート・スリップストリームについて ─── 縦乗りを克服しようシリーズその39
を参照して下さい。