最初に聞いた音が1拍目表に聴こえる病は、日本人だけが持つ特有のリズムの癖です。日本人がジャズ/ロック/クラシックなどの西洋起源の音楽を演奏するにあたって、この最初に聞いた音が1拍目表に聴こえる病が起因して、様々なリズム上の問題を引き起こします。
日本人が邦楽を演奏するにあたってとても大切になる日本人のリズム習慣は、日本人が洋楽を演奏するときにはほとんどの場合で有害です。日本人のリズム習慣は海外のリズム習慣と真逆の習慣になっており、同時に演奏すると音楽の良さを打ち消し合う結果となります。きちんとその違いを区別して混ざり合わない様にすることがとても大切です。
以下で最初に聞いた音が1拍目表に聴こえる病とは何かを説明し、そして最初に聞いた音が1拍目表に聴こえる病が起因することでどの様な問題が起こるのかを順を追って説明したいと思います。
『最初に聞いた音が1拍目表に聴こえる病』とは何か
日本語話者は、この日本人独特なリズムの癖を認識することは非常に難しく、非日本語話者が比較的たやすく日本人のリズムの癖を模倣することととても対象的です。この最初に聞いた音が1拍目表に聴こえる病を簡単にいうと、下記の譜面の大太鼓パート(上段)を叩けるかに要約できます。
この譜面にはテクニックもフィーリングも何もありません。全てが譜面上に記されておりそこには理解できない要素は何もありません。にも関わらず、この譜面通りに演奏することは大変に難しいものです。それは何故ならば『最初に聞いた音が表拍に聞こえる』という日本語話者独特な癖がそこに存在するからです。
この譜面上を良く見ると、4分音符1つ分の弱起を伴いかつ8分音符の弱起を同時に伴っています。これは結果的に合計2分音符1つ分の弱起ができることになります。日本人はほとんどの場合で、このような2種類以上の弱起を伴うリズムを認識できず、最初に聞いた音を1拍目頭と誤認してしまう習性があります。
この例では、その後4小節毎にこの2分音符/4分音符/8分音符の三重弱起が起こりますが、最初に聞いた音が二分音符のずれを伴っているということが認識できない為に、その後のパターンを正しく数えることができません。つまりこのあとのパターンが四小節毎に定期的に起こるリズムだということも認識できません。
更にこのあと八小節毎に二分音符/四分音符/八分音符の三重弱起が起こりますが、これも同様に認識することが出来ません。
この様に各音符の弱起が正しく認識できない為に、その後の拍数を正しく数えることが出来ない、ということがこの『最初に聞いた音が1拍目表に聴こえる病』の本質です。
様々な『最初に聞いた音が1拍目表に聴こえる病』
この最初に聞いた音が1拍目表に聴こえる病には、いくつかの種類があります。
- 最初に聞いた16分音符裏が1拍目表に聴こえる病
- 最初に聞いた8分音符裏が1拍目表に聴こえる病
- 最初に聞いた4分音符裏(4拍目)が 1拍目表に聴こえる病
- 最初に聞いた2分音符裏が1拍目表に聴こえる病
- 最初に聞いた全音符裏が1拍目表に聴こえる病
- 最初に聞いた2全音符裏が1拍目表に聴こえる病
※2分音符/全音符にも裏拍があります。詳しくは裏拍の大切さ
を参照してください。
何故外国の音楽には裏拍があるのか=スコッチスナップとは
現在、全世界でロックの影響を受けていない音楽はないでしょう。ロックはもともと50年代のジャズから派生した音楽です。ジャズはヨーロッパのクラシック音楽がアフリカの民族音楽の影響を受けて生まれた音楽です ─── 音楽史学者のフィリップ・タグ氏が言及するようにクラシック(古くゲーリック系の民族音楽の影響を受けている)やジャズ(西洋クラシック音楽にアフリカの民族音楽の影響が加わったもの)では、スコッチスナップと呼ばれる『アウフタクト』を含むリズムを持っています。
Scotch Snaps: The Big Picture from Philip Tagg on Vimeo.
ゲーリック系の民族音楽が持っていたスコッチスナップという8分音符の弱起が、アフリカ系の民族音楽が持っていた4分音符のオフビートと混ざり合って強調されることで出来上がったのが、今あるジャズ/ロックを起源とするオフビートが強調されたダンス・ミュージックです。
裏拍がない日本の音楽
ところが日本の伝統音楽は『アウフタクト』を持たないため、西洋起源のスコッチスナップを含むリズムを間違って解釈しなおしてしまう傾向があります。日本は、孤島という外界と完全に遮断された環境に置かれ、アフリカ/中国/ヨーロッパからの直接の影響をほとんど受けていないことから、時間に対する全く異なる概念を持っている様です。このことについては何故日本人は縦乗りなのか
を参照してください。
『最初に聞いた音が1拍目表に聴こえる病』が起こす問題
オンビート・スリップストリーム
リード奏者がジャズ的なオフビートを中心にしたリズムでアドリブラインを構成し、オフビートにニュアンス(もたり)をつけて演奏すると、日本語話者のリズムセクション演奏者はしばしばリード奏者の裏拍をずれた表拍と聴き間違えてしまい、リズムセクションが演奏する表拍の位置を無意識のうちにリードセクションの裏拍の位置まで修正してしまいます。これによってリード奏者のつけたオフビートのニュアンスが帳消しになって消えてしまうという問題が起こります。詳しくは オンビート・スリップストリームについて を参照して下さい。
オンビート・スリップストリームについて ───
縦乗りを克服しようシリーズその39
まとめ
今回は『最初に聞いた音が1拍目表に聴こえる病』について説明しました。
この病気で起こる症状は以下の通りです。
- 最初に聞いた音が1拍目表に聴こえる病・各種
- 最初に聞いた16分音符裏が1拍目表に聴こえる病
- 最初に聞いた8分音符裏が1拍目表に聴こえる病
- 最初に聞いた4分音符裏(4拍目)が 1拍目表に聴こえる病
- 最初に聞いた2分音符裏が1拍目表に聴こえる病
- 最初に聞いた全音符裏が1拍目表に聴こえる病
- 最初に聞いた2全音符裏が1拍目表に聴こえる病
更新記録:
オンビートスリップストリームについて加筆した。スイング理論へのリンクを追加した。 (Tue, 02 Feb 2021 04:32:17 +0900)
オンビート・スリップストリームに関する記述を別ページに分離した。(Wed, 03 Feb 2021 00:58:57 +0900)
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