ハービーハンコックのActual Proofの曲の構造を解りやすくまとめたリード・シートを作成した。
概要
Actual Proof
のコードチャートを作りました。この曲の譜面は1年位まえから要点を押さえて自分なりにまとめたうえで清書したいと思っていたのですが、この曲には表記しにくい音が多くうまくまとめられずに1年ほど悩んでいました。本日ようやく完成しましたのでここで紹介します。
リード・シート
要点
- この曲がごくありきたりな A A' B C /4+4+4+3小節構成の曲だということを示したい。
- この曲は変拍子ではなくごく一般的な16ビートファンクだということを示したい。
- この曲は実は Maiden Voyage の様な単純なモード曲だということを示したい。
説明
この曲は代理和音が多いため一瞥ではわかりにくいですが、実は So What や Maiden
Voyage のようなシンプルなモードで作られています。今回このActual Proof
の譜面には二段のコードを表記しました。下段は通常のコードで、上段は対応するドリアンスケールの名になっています。
Dドリアンなら D-7/ Eb ドリアンなら Eb-7 とかいてあります。
ドリアンクロマチック理論について
このドリアンスケールの導き出し方ここで簡単に説明してみたいと思います。これは僕がドリアン・クロマチック理論と呼んでいる理論に基づいています。僕は全てのコードをドリアンスケールに当てはめて考えているのですが、これは僕のオリジナルのアイデアというわけではなく、ウェスモンゴメリのフレーズ研究での要望に基づいて生まれた仮説です。本当のことはウェス・モンゴメリに聞いてみなければわからないですが、ウェスモンゴメリのフレーズは全てドリアンと考えるととても簡単に説明できます。
アラン・ホールズワース氏も「それぞれのコードに違うスケールを当てはめて考えることはせず1つのスケールとしてまとめて考えている」と教則ビデオで語っているところから、恐らくですがアラン・ホールズワースも近い考え方をしていたのではないかと自分は考えています。
他にも多くのジャズマンが実はそう考えているのではないかと僕は思っているのですが、それは何故かというとこの理論をつかうとジャズのフレーズをとてもシンプルに説明できるからです。
- B-7(b5) → D ドリアン
- G7 → D ドリアン
- C → D ドリアン
- Db7 → D ドリアン
これは一番基本的な教会旋法の理論ですが、要点はつまり「ツーファイブのフレーズを1つ覚えたら、上記4つのコードのどこでも使える」ということです。またドリアンとメロディックマイナーは、まったく同じ場所ですり替えて使うことができます。更にディミニッシュスケール・と・オーギュメンテッドスケールも同じ様にすりかえて使うことができます。これが理解できれば、覚えたフレーズの応用範囲が4倍に広がりますし、練習量は4分の1で済むようになります。
この理論を使って
Actual Proof
を考えてみると、このめまぐるしいコードチェンジの背景には4つのスケールが存在することがわかります。
- C ドリアン
- Eb ドリアン
- Gb ドリアン
- E ドリアン
ここで C/Eb/Gb
は短三度ずつ移動していることに注意が必要です。ドリアンはマイナースケールの1つですが、マイナースケールが短三度で移動する時、それは非常に高い確率でディミニッシュスケールから派生したマイナースケールだったということが推測されます。つまり
C/Eb/Gb の部分でディミニッシュスケールを適用できることがわかります。
ディミニッシュスケールでは、短三度ずつずれたマイナースケールが全て利用できます。つまり
C/Eb/Gb それぞれの部分では、C ドリアン Eb ドリアン Gb ドリアン A
ドリアンの全てがどれでも利用可能ということがわかります。
次に E
ドリアンが出現します。Eドリアンを仮にディミニッシュとして考えると、これは
E/G/Bb/Db
マイナースケールを含むディミニッシュスケールに属していることがわかります。つまりここでは
E ドリアン/G ドリアン /
Bbドリアン/Dbドリアンの全てが利用できる可能性があります。
Actual Proofの和声構造
ここまでのことを総じると、この曲はCディミニッシュと、Dbディミニッシュの2つのスケールだけでできている…と考えることができます。
リズムの大切さについて
そして一番大切なのは、リズムです。和声的にどのような解釈をして演奏しても間違っているということはありません。しかしリズムにははっきりとした正誤があります。ハーモニー上でどんなに正確に和声を弾いたとしても、リズム上で誤りがあれば音楽は心地よくサウンドしません。
これを僕が普段お話している「八分音符1つずれた声出しカウント」によって狙い通りに区切ってゆくことで、スケールを正しい位置で分割していきます。
終わりに
駆け足でしたが、このようにすれば比較的機械的にジャズ的なフレーズを組み立てていくことができるのではないか、と自分は考えています。
僕はこれまでほとんどコード理論について語ってこなかったのですが、これからはもっと積極的に語っていこうかなと思っています。演奏するうえできちんと演奏内容の背景を演奏者同士で共有していくことが良い演奏をするうえで欠かせないことではないか、と思うからです。
譜面を最新版に差し替えた。(Wed, 23 Dec 2020 15:57:05 +0900)