スワグサーフィンと日本語の発音
このビデオを見てください ─── このビデオは2010年ごろに米国ヒップホップシーンで流行したヒット曲です。最初私はこれを聞いた時、私はこれが何を言ってるかさっぱり聞き取れませんでした。今でもほとんどききとれません。しかしこの音楽をよく聞いているうちに私は、私が単語のリズムの表拍と裏拍を完全に入れ違いとして聞き違えている事にだんだんと気付いてきました。つまり私が子音と思っていた場所が実は母音で、私が母音と思っていた場所が実は子音だったことに気付いたのです。
リズム音痴と英語の音痴の原因は共通 ─── このことは私が前からずっと思っていたことでした。しかし問題はこれをどうやったら日本語の世界で見える化できるかということです。
今回私がこれをどうやって見える化したかをここで説明してみたいと思います。
縦乗りの正体は日本語の発音にある
冒頭で『メナガテッスウェーッグ』と言っている様に聞こえますが、これは実は『 man, I got that swag 』 と言っているのだそうです。日本語の発音と英語の発音を比べてみると次のようなことがわかります。
- メナガテッスウェーッグ
- man, I got that swag
単語の終わりと頭が必ずくっついていることがおわかりいただけますでしょうか。
この違いを模式的に表すと次のようになります。
日本人の聞き間違い図説
これをよく観察してみると、次のような法則が見えてきます。
英語の音節解釈 | 音節 | 音節 | 音節 | 音節 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
英語の発音 | 子音 | 母音 | 子音 | 子音 | 母音 | 子音 | 子音 | 母音 | 子音 | 子音 | 母音 | 子音 |
日本人の発音解釈 | 子音 | 母音 | 子音 | 母音 | 子音 | 母音 | 子音 | 母音 | - | |||
日本語として解釈された音節 | 音節 | 音節 | 音節 | 音節 | - |
日本語には全ての発音が子音→母音/子音→母音と交互に現れるという法則があります。日本語を母国語とする日本人は、日本語以外の言語を話す時も無意識のうちにこの子音母音が交互に現れることを期待してしまうのです。
しかし英語には末子音があります。つまり英語では、子音→母音→子音/子音→母音→子音…という順番で発音が現れます。日本語にはこの末子音がないため、この末子音が次の音節の子音と重なり合ってしまい、その2つを分離することができません。つまり最後の子音が次の子音と繋がったまま発音しているが別な子音として分けて認識しています。
つまり日本人はこの後ろ側の子音=末子音を聞き逃してしまう。これは日本人がジャズのスイングを演奏すると3連符の最後の音符を聞き逃してリズムが狂ってしまうことと全く同じ現象です。3連符の最後の音符を聞き逃してリズムが狂ってしまう現象 ─── それがすなわち日本人ジャズマンの悪しき習慣『縦乗り』です。縦乗りは、日本人が英語が苦手な理由そのものなのです。
他の例を見てみましょう。
「これからどうするの?」 What have you got to do? を日本語の発音解釈で解釈するとまるで「ワタヴャガダドゥ」と言っている様に聞こえます。その発音解釈を模式図として表したものがこれです。 この例でも同じように末子音が次の子音に繋がって聴こえることが観察できます。
英語音痴とリズム音痴の共通点=縦乗り
日本語と英語では聞いている場所が違います。
- 英語には末子音があります。
- 英語には2重子音があります。
- 日本語には末子音/二重子音がなく、常に子音母音が交互に現れます。
この発音の特徴の違いが私には音楽のリズムの特徴の違いととても似ている様に見えます。
-
日本語では
表・裏・表・裏
という順番で区切れる。 -
英語では
裏表・裏表・裏表・裏表
になる。
英語は必ず裏からリズムが始まり、日本語では必ず表からリズムが始まる ───
つまり、日本語の発音は縦乗りそのものではないでしょうか。
縦乗り矯正法の決定打『末子音探し』
今回私が思いついたのは、つまり日本語で語末の子音を分離する練習をしたら、英語のリスニング能力が上がるのではないか、ということでした。自分自身で試してみたら案外と効果がありましたので、その方法をここで紹介してみたいと思います。
それは日本語の発音上で3連符の表裏を逆の順番を読むことです。
例)七夕花火にカンパーイ『タナバタ・ハナビニ・カンパーイ』
↓↓↓
- ターン
- ナーブ
- バート
- ターハ
- ナーブ
- イーン
- イーク
- アーン
- パーイ
日本語なのにまるで外国語のようになりました。
ここで適用した法則は次のようなものです ─── タナバタをローマ字で表すと TA NA BA TA になります。ここで各文字の母音とその次の文字の子音を繋げると TAN/NAB/BAT/TAH になります。つまり「ターン」「ナーブ」「バート」「ター」だ。この様にして音声を分解していく作業をすることで、英語の発音に慣れることができるのです。
なお上記例では「ターハ」になっている最後の文字が「ター」になってしまいましたが、これは上記例のタナバタの次はハナビとハから始まっているのに、タナバタのみの場合は後続の文字がないためターのみになってしまったことによるものです。
このように次に現れる文字によって最後の発音が変化する点が非常に重要なポイントです。英語では次に現れる音声によって最後の音声が変化しますが日本語では変化しません。この違いに慣れることが大切なのです。
別の例を見てみます。
例)かささぎの わたせる橋におく霜の 白きを見れば夜ぞふけにける
『カササギノ・ワタセルハシニ・オクシモノ・シロキヲミレバ・ヨルゾフケニケル』
↓↓↓
- カース
- サース
- サーグ
- ギーン
- ノーウ
- ワーット
- タース
- セール
- ルーフ
- ハース
- シーン
- イーオ
- オーク
- クース
- シーム
カタカナ外来語の時はどうするか、漢字の音読みはどうするか、四文字熟語の読み方はどうするか等々の様々な変則パターンが存在します。これらの変則パターンをきちんと一貫性をもって処理する法則が必要だと私は思っているのですが、私はまだそれをどうやって処理するか考えていません。これはこの練習方法の今後の課題として残っています。
日本人のリズムは何故悪いのか
日本人のリズムが『悪い』原因をとても具体的に説明した。 日本人のリズムは日本の音楽から見れば悪くない。だけどここまでインターネットが普及し、情報が広く開かれて世界中の音楽が日本に押し寄せてくる中で、日本は他のリズム文化の価値観との比較のなかで『悪く』なる。
自分のリズム感を生かして真摯に純邦楽を演奏するのもひとつです。或いは外国のリズム文化を謙虚に学んでそこで自己表現方法を身につけていくということも、また一興ではないでしょうか。
更新記録:
タイトルを『英語と日本語の発音の違い』→『末子音がない日本語』に変更しました。
(Sun, 29 May 2022 01:12:02 +0900) 文体をですます体に変更しました。加筆訂正を行いました。