というわけで、ギターアンプを語るときに欠かせない『コンプレッション』について、説明してみたいと思う。
ギターアンプは、難しい。どんなハコでも、いつもと同じプレイアビリティ(弾きごこち)を確保するのは、思ったよりずっとむずかしい。いくら一生懸命ギターを練習しても、ハコが変わると手も足もでなくなる…なんてのはよくある話 ─── 実は、これの原因は、アンプのコンプレッション不足にある。
実は、コンプレッションは、ディストーションよりもはるかに重要だ。コンプレッションを正しくコントロールできるかどうか ─── これがギタリストとしての生死を分ける。
歪んだギターの音は、誰にでもわかりやすい。だが、コンプレッションは、音色自体には影響を与えない為、その姿が見えにくく、その重要性がなかなか理解されない。だがコンプレッションの設定が正しくないと、どんなに上手な演奏も、残念な演奏になってしまう。コンプレッションは、エレキギターの命だ。
コンプレッションとは、入力が、ある一定以上大きくなると、出力はそれ以上、大きくならないという現象のことをいう。人によって、これを『音圧(おんあつ)』などと呼ぶが、音圧という言い方は人によって全く違う意味で使われており、曖昧なので、ここでは『コンプレッション』と呼んでみたい。
コンプレッションは、少し話を聞いただけでは、全く重要でないように感じるかも知れないが、このコンプレッションこそが、そのギターの「歯切れ」「伸び」「太さ」などを作り出す生命だ。また、これもギタリストの醍醐味「速弾き」が綺麗に響くかどうかも、コンプレッションの設定によるところが大きい。どんなテクニカルな速弾きフレーズも、コンプレッションの設定が正しくないと、実に残念な感じになってしまう。
僕は、ソフトウェアに関してはプロだが、電機に関しては全くの素人だ。だが普段ギターを弾いている関係上、アンプのコンプレッションについて英語でいろいろな文章を読んで勉強した。結果、僕が今、知っていることは、日本語であまり説明されていないことだということに気付いた。
というわけで、以下、コンプレッションについて語ってみたいと思う。
このような話題はとかく、感覚的な表現が増えがちなので、実際にアンプから音を出して、ビデオで撮影したりしないと、見ている人に伝わりにくい。だがここでは、まず理論だけを日本語として説明してみたい。
そもそもアンプとは
アンプとは、小さな電気信号を大きな電気信号に変える装置のことだ。アンプは、オーディオ用だけでなく、無線用や検知器用など、様々な用途で使われている。ギタリストが使うギターアンプは、普通、複数のアンプが組み合わさった構造になっている。一般的なギターアンプは、2〜3つのアンプが入っており、直列につながれている。それぞれのアンプに、それぞれひとつのボリュームがついている。ギターアンプに、いくつかのボリュームがついているのは、だからだ。
アンプの特性
アンプは、入力した電機信号を、更に大きな電気信号に変換して出力する機械だ。音を大きくするといえば、簡単なように感じるが、現実世界のアンプの挙動はとても複雑だ。音量が2なら4に、4なら8に、8なら16に … というように、直線的に大きくなるわけではない。そこに色々なクセがある。アンプのクセを説明する時、グラフにするとわかりやすい。通常、入力信号の大きさを右に、出力信号の大きさを上にとって、グラフを描く。
このグラフのように、『ギターから出る音が大きくなればなるほど、アンプから出る音も大きくなる』 … というのであれば、話は簡単だ。だが現実のアンプは、こんなに単純ではない。アンプには強いクセがあり、入力の周波数帯と音量によって、出力が大きく変化する。
この変化が、ギターらしい面白い音を生みだす原動力になる。ギター用のアンプには、通常のアンプとは、全く違う特性が求められる。
だから、ギタリストにとって、アンプのクセを理解することがとても重要になる。
そのクセを視覚的に表現して理解しようというのが、このグラフの趣旨だ。
ディストーション/オーバードライブ
ディーストーションやオーバードライブは、恐らくギターを弾く人なら必ず知っているだろう。この音色は、ギターの醍醐味と言っていい。アンプの入力信号(ギターの音量)が一定以上大きくなると、アンプから出る音が歪む。これをディストーション又は、オーバードライブと呼ぶ。
ディストーションとオーバードライブは、物理的には同じ現象だが、一般通念上、その音色によって呼び方を変える場合が多い。特に厳密な定義があるわけではないが、一般的には、ディストーションは、ヘビーメタル系音楽のような高域を多く含む歪みで、オーバードライブは、フュージョンやハードロックなどの、中低域を多く含む歪みを指すことが多い。
ジム・ホールや、ジョージ・ベンソン、パット・メセニー等々のギタリストの音色は、一般的に『クリーントーン』と呼ばれ、歪んでいない音色だと考えられている。だがクリーントーンでも、実際にはかすかに歪んでおり、この歪みが音色に特徴的な共鳴を与える。
エレキギターをステレオなどの歪みの少ないアンプにつなぐとわかるように、全く歪まないクリーントーンは、周波数特性になんの特徴もないペラペラな面白みのない音色になってしまう。
つまり、ギターアンプは、ギターらしい音色を生みだす原動力である。ギターアンプも楽器なのだ。
つまりアンプが、どれくらいの音量から、どの様な音色で、どれくらい歪むのか …ギタリストにとって、歪みの原理を理解し、思い通りにコントロールすることは、とても大切なことだ。
コンプレッション
実は、コンプレッションは、ディストーションよりもはるかに重要だ。コンプレッションの掛かり方を正しくコントロールできるかどうか ─── これがギタリストとしての生死を分ける。歪んだギターの音は、誰にでもわかりやすい。だが、コンプレッションは、音色自体には影響を与えない為、その姿が見えにくく、その重要性がなかなか理解されない。だがコンプレッションの設定が正しくないと、どんなに上手な演奏も、残念な演奏になってしまう。コンプレッションは、エレキギターの命だ。
コンプレッションとは、入力が、ある一定以上大きくなると、出力はそれ以上、大きくならないという現象のことをいう。
コンプレッションは、少し話を聞いただけでは、全く重要でないように感じるかも知れないが、このコンプレッションこそが、そのギターの「歯切れ」「伸び」「太さ」などを作り出す生命だ。また、これもギタリストの醍醐味「速弾き」が綺麗に響くかどうかも、コンプレッションの設定によるところが大きい。どんなテクニカルな速弾きフレーズも、コンプレッションの設定が正しくないと、実に残念な感じになってしまう。
この図の様に、コンプレッションがかかった状態では、入力信号(ギターの音量)がある一定以上大きくなると、出力信号の大きくなりにくくなる。
どれ位の音量から、どれ位音量が下がるのか。このコンプレッション量をコントロールすることがとても大切になる。
コンプレッションは、とても重要だ。何故なら、人間が『強い音』と感じる音は、決して大きな音というわけではないからだ。
人間がギターを強く弾けば、音量も大きくなる。だが同時に、ギターから出る音色が変化する。ギターは、弱く弾くと中低域に偏ったまろやかな音色になるが、強く弾くと、 高域が強くなった鋭い音に変化する。また同時に、弦は指板に当たり鋭い打撃音を出す。これらが「音が強くなった」という表情となって、人間の耳に届くことになる。
これが正に、ピッキングニュアンスの正体だ。
強い音は、決して大きな音ではない。このことを知らないと、アンプのセッティングを正しく行うことができず、結果としてピッキングニュアンスが出しにくくなり、バンド演奏がうまくいかなくなる。
弱くピッキングしているときは音が小さいのに、ちょっとでもギターを強くピッキングすると「ドカーーーーーン」と大きな音が出てしまって、弾きにくくて仕方がない … これは、ギタリストなら一度や二度は経験したことがあるトラブルではないだろうか。こうなるとギタリストは常に、おっかなびっくりで、弱くピッキングしなければならなくなる。これでは、ピッキングニュアンスをつけることができない。演奏はのっぺりとした平坦なものになってしまう ─── これは、何らかの原因でコンプレッションがかからないまま、アンプ全体の音量を大きくしたことが原因で起こる。
バンドのなかでエレキギターを演奏すると、他の楽器との音量のバランスが重要になる。 ドラムレスであれば、バンドの平均音量は小さくなるので、大きな音をだす必要はない。だがドラムが入れば、平均音量が大きくなるので、必然的にギターに求められる音量も上がることになる。
まず、ギターが出す一番強い音が、ギターが出す一番大きい音に一致していないといけない。次に、バンド内で演奏するとき、ギターから出る一番大きい音が、一番音量が大きい楽器(大抵はドラムだ)が出す一番大きな音と一致していないと、いけない。これに失敗すると、ギターの音色の表情をつけることがとてもむずかしくなる。
演奏する状況によって絶え間なく変わりゆく音楽のダイナミクス(最小音量と最大音量の設定)のなかで、エレキギターのダイナミクスを適切にコントロールするもの… それが、コンプレッションだ。
エレキギターは、サックスやドラムのようなアコースティック楽器ではないが、とはいえシンセサイザーのような完全なエレクトリック楽器でもない。アコースティック楽器は、そのダイナミクスが最初から決まっており、変わらない。エレクトリック楽器は、ダイナミクス量をつまみひとつで簡単に調整できる。
エレキギターのダイナミクス量の調整は、一筋縄ではいかない。エレクトリックではあるが、基本的に全てアナログだからだ。エレキギターでは、ダイナミクス量を調節するために、色々な回りくどい方法論を経過する必要がある。
ヘッドルーム
ヘッドルームとは、コンプレッションがかかり始めてから、歪み始めるまでの音量の幅のことを指す。ヘッドルームが広いアンプほど、いわゆる「クリーントーンが綺麗」なアンプになる。本来ヘッドルームとは録音エンジニアの世界で使われる用語で、入力信号の最大音量から、その機材が歪まないで録音できる最大音量までの空間のことを指す。
だがギタリストの世界では、コンプレッションがかからない状態でアンプを使うということは絶対にありえず、心地よいコンプレッションがかかり始める音量から、歪み始める音量までの空間が主要な関心事になる。
このことから、ギタリストが『ヘッドルーム』というときは、入力信号の最大音量ではなく、コンプレッションがかかり始める音量から、歪み始める音量までのことを指す場合が多い。
コンプレッションの起こり方
エンベロープとは
コンプレッションとは、つまり音が大きくなったら、自動的にボリュームが下がる装置のようなものだ。だが、ここにまるで無限の宇宙のような広い世界が待ち受けている ─── どれ位の音量から、どれ位の量、どれ位の速度で、どの様に経過して、ボリュームが下がるか … これらの要因によって、全く違う楽器のように印象を変えてしまうのだ。そのことを理解する為には、まず一般的な楽器の音量の仕組みを理解する必要がある。
- アタック:無音から最大音量に到達するまでの、立ち上がりのこと。立ち上がり時間のことを「アタックタイム」といい、立ち上がった最大音量を「アタックレベル」という。
- ディケイ:最大音量から、減衰して次に説明するサスティン音量に落ち着くまでの時間を言う。アタックとディケイを両方含んで「アタック音」などと呼ぶこともある。
- サスティン:楽器の音が出始めたあと、音が消えるまでの「鳴り」のこと。サスティン時の音量を「サステインレベル」、サステイン時にどれくらいの時間、音が維持されるかを「サステインタイム」という。
- リリース:楽器の音を止めた時(ピアノでいえば、鍵盤から指を離した時)、音が鳴り止むことをいう。音を止めてから、音が完全に消えるまでの時間を「リリースタイム」という。
この音量の変化のことをエンベロープと呼ぶ。
コンプレッションとは、このエンベロープの形を変化させるメカニズムとも言える。
コンプレッションの速度
アンプに一定以上の音量を入力しても、出力の音量は一定のままになる… このコンプレッションという動作をシミュレーションしたエフェクターが、コンプレッサー/リミッターだ。前述の、弱くピッキングしているときは音が小さいのに、ちょっとでもギターを強くピッキングすると「ドカーーーーーン」と大きな音が出てしまって弾きにくい … という現象は、コンプレッサーを使うことである程度、症状を改善することができる。
だが、エフェクターのコンプレッションを利用しても、決してアンプが持っているコンプレッションと同じにはならない。エフェクターのコンプレッションは、どうしても人工的で不自然な印象を与える。アンプのスムーズなコンプレッションは、エフェクターでは絶対に再現できない。
(近年の音響技術の発達は著しく、近い将来これを再現する技術が登場することは間違いないが、2017年現在、それはまだ現れていない。)
コンプレッサー/リミッターの動作は、非常に単純だ。
コンプレッサー/リミッターがやっていることは、2つある。1つは、一定以上の音量を検知した時、一定時間待ってから、そのはみ出た音量を直線的に切り落とす。2つ目は、一定以下の音量を検知した時、その足りない領域の音量を直線的に付け足す。
だが直線的に処理しているだけなので、出来上がった音には、どうしても不自然さが残る。これは(これは飽くまでも僕が個人的に思っていることだが)コンプレッサーが作りだす音には、アタック部分にどうしても不自然な音の形が残ることによるのではないか、と思う。
コンプレッサーは、飽くまでも音量を直線的に変化させているだけなので、聴感上、非常に角ばった硬い印象の音色として耳に届く。またアタックに2段の段差が出来てしまい、これが人間の耳に、不自然な音の変化として感じられる。
テクノやファンクなどでカッティングを演奏する時、このコンプレッサーが創りだす硬い音を逆に利用して、スピード感や鋭さを演出する。だが、ジャズやフュージョンでのソロを演奏する時、コンプレッサーを使って、柔らかででよく伸びる音を作ろうとすると、なかなかうまく行かない。
アンプが作り出すコンプレッションは、もっと複雑な動作をする。特に真空管アンプを使っている場合に顕著だ。 以下は、僕が考えた想像図だ。
適切にセッティングされた真空管アンプのコンプレッションでは、ギターから音を出した時、音の立ち上がりが非常に速く、ギターから出る音量が上がり切らない内に、アンプから一気に大きな音が出る。それと同時に、ギターから出る音量が上がりきった時、アンプからは出る音量が一気に下がる。そしてそこから、なめらかにかなり大きめのサステイン音量に収束する。
これが真空管アンプ独特な「バァーゥーーン」というインパクトのある音を作り出す…のではないか、と僕は想像している。
周波数帯域とコンプレッション
アンプが持っているコンプレッションは、全ての周波数帯域に均等に掛かるわけではない。アンプのコンプレッションには、周波数帯によって深く掛かる周波数帯域、浅く掛かる周波数帯域がある。 例えば、フェンダー・ツインリバーブの様に、高音域に心地よいコンプレッションが得られるアンプもあるし、メサブギーの様に、中低音域に伸びのあるコンプレッションの得られるアンプもある。一般的に、高音域のアタックの立ち上がりが速く、コンプレッションが充分に得られるアンプは、しばしば低音域のアタックの立ち上がりが遅く、コンプレッションも充分に得られない。
低音域のアタックの立ち上がりが速いアンプのことを「低音域のレスポンスが良い」などと表現する。
余談だが、低音域のレスポンスが良いアンプは、長い間、入手が困難だった。
かつてレコード音楽が全盛だった70年代〜80年代のころ、人々はまろやかな中音域を好む傾向があった。だがデジタル音楽が全盛の2010年代、人々はシャープな高音域を好むように変貌した。この変化により、2000年代〜2010年代になると、低音域のレスポンスが良いアンプを求める人が激減し、アンプの流通数も同時に激減、入手が困難になった。
この時代、パットメセニーやジム・ホールのようなダークなクリーントーンを求める人にとって、低音域レスポンスの良いアンプを見つけ出すことが、死活問題となった。
だが2010年代後半に入り、アナログ回帰の動きが出てきたようだ。シンセサイザー音楽の世界も、ソフトウェア・エミュレーションのシンセサイザーを避け、敢えてアナログシンセを使うミュージシャンが増えてきた。 この影響で、70年代風の中低域レスポンスがよいアンプが、再び売られるようになってきた。
話を元に戻す。コンプレッサーのコンプレッションは、アンプのコンプレッションと違い、単にボリュームを上下させているだけなので、全ての周波数帯に同じコンプレッションが掛かる。これは、コンプレッサーの音色の不自然さの原因のひとつでもある。
そこで、周波数帯によってコンプレッションの掛かり方が違う…という動作をシミュレートしたコンプレッサーが作られた。これを「マルチバンド・コンプレッサー」と呼ぶ。
マルチバンド・コンプレッサーは、かつて非常に高価で、本格的な録音スタジオにしか置いていない機材だったが、現在では、コンピューター上で動作するソフトウェアのものが主流で、無料ソフトのものも存在する。ギター用の小型ペダル式のものも比較的手頃な値段で市販されている。
しかし、マルチバンドコンプレッサーを使ったとしても、得られる音は、アナログのアンプが持っている自然なコンプレッションには、程遠い。
ボリュームとコンプレッション
普通、アンプが持っているコンプレッションとディストーション/オーバードライブの掛かり方は、アンプのボリュームによって変化する。ギタリストなら、アンプのボリュームを小さく絞った時よりも、アンプのボリュームを最大近くまであげた方が、良い音がする…ということを経験的に知っているのではないだろうか。
これは音量が大きいからそう感じるという感覚的なものではなく、実際にアンプから出る音質が変化するからだ。出力音量(ボリューム)を大きくすると、コンプレッションやディストーション/オーバードライブのかかり始める入力音量が下がり、かかりやすくなる。
アンプのボリュームを絞っていると、低音域のコンプレッションが得られなくなり、音がペラペラのセミが鳴くような音色になってしまう。
アンプのボリュームとコンプレッションの関係を模式的に表すと、次の様になる。
これは飽くまでも僕が考えた想像図で、正しいかどうかはわからない。だが、この様に考えると、アンプのコンプレッションをうまくコントロールすることができるので、僕はこれを、一種の仮説と考えている。
ボリュームとディストーション/オーバードライブ
出力ボリュームが最大に近づくと、ディストーション/オーバードライブがかかり始める音量が下がり、コンプレッションが掛かり始める音量と近くなってしまう。つまりヘッドルームが小さくなっていく。ギターアンプで「ヘッドルームが広い」と言った場合、出力ボリュームが最大に近い状態でもディストーション/オーバードライブが掛かり始める音量が高いまま維持される=ヘッドルームの広さが確保されることをいう場合が多い。
デュオで演奏するときは綺麗な音色が出ているアンプでも、ドラムが入った途端に歪みがでて聞き取りにくくなる...というような場合、もっとヘッドルームにゆとりのあるアンプを使うか、或いはアンプの出力を高いものに変えると解決する可能性が高い。
ギターアンプのダイナミクスコントロール
アンプは、出力ボリュームが大きい程、低い入力信号でコンプレッションが掛かるようになる。つまり、低い出力ボリュームでコンプレッションを得ようとすると、コンプレッション開始地点が上がったぶんだけ、ギターを強く弾く必要がある。すると、ギタリストは、必要な音量を得るため、常にギターを強く弾かなければならなくなり、結果としてピッキングニュアンスが平坦でつまらない演奏となりがちだ。
この問題を解決するため、2つの方法がある。
1.ブースト
優しい音色が欲しい時は、弱くピッキングしなければならない。するとギターから出る音量はどうしても減少し、コンプレッションを得るために必要な音量に到達しなくなり、コンプレッションが不足する。この状態で、大きな音量が欲しいこともある。例えば、大きな広場で、大勢の人たちを前にしてバラードなどを弾く場合は、弱くピッキングした時でも、ある程度の音量が必要になる。必要なコンプレッションが得られないまま、弱くピッキングした時の入力音量に合わせて、適切な出力音量にセッティングしてしまうと、強く弾いたときに、観客に迷惑が掛かるほど、大きな音が出てしまう。
ギターから出る音量が低い時に、アンプの前にアンプをつなぐことで、充分なコンプレッションを得よう、という発想で生まれたのがブーストだ。
ブーストする為には、ブースターと呼ばれるペダルエフェクターを利用する。アンプによっては、ボリュームの前段にゲイン(GAIN) と書かれているボリュームがついている場合がある。このゲインは、これはブースターと同じ役割を果たす。
前述の通り、コンプレッションの掛かり方は周波数帯によって異なる。ブースターによって、高域・中域・低域と周波数帯別のブーストが可能なものもある。
2.プリアンプ
もうひとつの解決策は、アンプを2つ直列につなぐことだ。1つ目のアンプでボリュームを上げて充分なコンプレッションを得たうえで、2つ目のボリュームを小さくすることで、充分なコンプレッションを確保したまま、音量を控えることができる。コンプレッションを適切に調節する1つ目のアンプのことを、プリアンプと呼ぶ。実質的な音量を調節する2つ目のアンプのことをメインアンプと呼ぶ。
現在では、ほとんどのギターアンプが、このプリアンプとメインアンプに分かれた構造を採用している。
コンプレッションのいろいろ
これは飽くまでも、僕が個人的に考えていることだが、ギターのコンプレッションのかけ方には、アンプ・エフェクター以外にもいくつかの方法がある。弦高を下げる
弦高を下げると、弦が指板に当たりやすくなり、いわゆる『ビビり』が出やすくなる。一般的に、ビビりは良くない現象と考えられているようだが、僕は、敢えてビビりを出すように弦高を低めに設定するのが好みだ。弦高を低くすると、軽く弾いただけでアタックの強い音が出せるし、更に強く弾いた時に、高い弦高では絶対にでないような非常に強いアタック音を出すことができる。また、ビビりによって消された後に残る音は、ダークで落ち着いた鈴がなるような音色になる。
低い弦高が、一種のマルチバンド・コンプレッションの様な効果を出しているのではないか...と僕は考えている。
この状態でアンプのコンプレッションを調節すると、中域がよく伸びる僕の好みの音になる。
ギターのボリュームを絞る
普通、ギターのボリュームを絞った状態にすると、いわゆる「ハイ落ち」が起こるので良くないとされる。だが僕は、敢えてボリュームを絞った状態で弾くようにしている。意図的にハイ落ちを誘引することで、70年代風のダークな音色が得られるからだ。ここで得られる音色の変化は、トーンを絞って得られるものと異なる。僕は、ボリュームを絞った時の音色の美しさを出すため、ボリュームを絞って、なおかつブースターをかけることによって減った音量を補う...ということをすることもある。
ボリュームを絞ることで得られる音色の変化は、ギターについているボリュームポッドの特性によって全く違うものになる。ギターについているボリュームポッドは、天然のイコライザと言ってよく、ポッドの種類によって全く違う周波数特性を持っている。 一般的にボリュームポッドの数値が大きい物ほどハイ落ちが少なく、絞った時の効果も小さくなる...とされる。だが僕の感じでは一概には言えないのではないか、と思う。はっきりしたことはわからない。
僕は、ギターのボリュームを絞った時のほうが、ボリュームを全開にした時よりも、心地よいコンプレッションを得やすい...と感じることがある。これは飽くまでも体感的なものなので、はっきりしたことはわからない。
ギターのトーンのコンデンサを色々と変えてみる
ギターについているトーン用コンデンサを変えると、ギターの音色に大変な変化を与える。コンデンサは、正に天然のイコライザだ。特に、古くて調子が悪くなった、ほとんど壊れているペーパーコンデンサをギターにつけると、ギターの音色は劇的に変化する。古いペーパーコンデンサこそが、枯れたギターの音色の根源ではないか、と僕は考えている。古い壊れたコンデンサの動作は、謎が多い。僕の説では、古いコンデンサでは『自己共鳴周波数』が下がってしまうのではないか、と考えている。コンデンサは『自己共鳴周波数』を超えると正しく動作しなくなる。壊れて『自己共鳴周波数』が下がっているコンデンサをギターにつけると、これがギターの周波数成分に何らかの影響を与えるのではないだろうか。
また僕は、コンデンサーもコンプレッションの掛かり方に影響を与えている、と感じている。 これには体感的な感覚以外になんの根拠もなく、はっきりしたことはわからない。だが恐らくは、周波数帯によってコンプレッションの掛かり方に違いが起こる理由と同じなのではないか、と僕は考えている。
ギターのコンデンサ・ボリュームが音色に与える影響については おかあつ日記『ビンテージギターの音色が美しくなる原理』 に、いくつか僕が個人的に気付いたことがまとめてある。
注意:ギターのコンデンサ/ボリュームポッドと美しい音色の関係については、謎が多く、ほとんど何も明らかになっていない。もし今、これを読んでいるあなたがビンテージギターを所有しており、今の状態で、気に入った音色が出ていたとしたら、絶対にコンデンサ/ボリュームポッドは交換してはいけない。交換してしまったら、現代の人類が持っている叡智を以ってしても、二度と同じ音色を再現することはできない。
真空管を交換する
アンプの真空管の寿命が過ぎると、ディストーション/オーバードライブのかかり始める音量が極度に下がり、ほとんどコンプレッションがかからなくなる。こうなると、ボリュームをどんな組み合わせで調節しても、絶対に適切なコンプレッション量やディストーション/オーバードライブ量は、得られない。こうなったら真空管を交換する以外に方法はない。このことを知ることは重要だ。何故なら、ライブハウスやスタジオに備え付けのアンプは、乱暴な初心者が、滅茶苦茶なセッティングで爆音を出したりする為、真空管が傷んでいることが多いからだ。また、適切にメンテナンスされておらず、真空管が駄目になったまま放置されていることも多い。 現実世界では、備え付けのアンプで美しいクリーントーンを出すのは、まず無理と考えたほうが良い。
このことを知らないと、絶対にコンプレッションが得られないアンプで、頭を悩ませ試行錯誤して時間を無駄にすることになったり、絶対に演奏がうまくいかないセッティングでライブをやって、無為に自信を喪失させたり… という、ギタリストとしてとても不幸な結果を招く。
結論
ギターの音色を作るというのは、つまり、高域・中域・低域それぞれで、好みのコンプレッション量、及びディストーション/オーバードライブ量を調節することだ。コンプレッション量・ディストーション/オーバードライブ量は、ギターアンプの出力ワット数・アンプの入力音量・アンプの出力音量によって決まる ─── つまり、求められる音量によって、最適なセッティングは、変化する。
部屋で弾いている時、教室で弾いている時、音楽室で弾いている時、路上で弾いている時、バーで弾いている時、ライブハウスで弾いている時、 ドラムがいる時、ドラムがいない時 等々等々 ・・・ 求められる音量によって、セッティングは全く異なるものになる。
適切なアンプ出力・適切なボリューム設定・適切な周波数帯域別ブースト量を選択し、狙い通りのコンプレッション量・適切なディストーション/オーバードライブを得るようにしたい。