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2020年1月24日金曜日

正しいメトロノームとカウントのつかいかた ─── 縦乗りを克服しようシリーズその15(oka01-exdwjncpazylicpm)


私が考案したグルーヴする為のカウントの使い方を説明しようと思う。ここで挙げた練習方法は、海外の人がみな当たり前の様に感じているリズムを、日本人である私が演奏しようとしたときに、必要だった訓練を体系化してまとめたものだ。

ここで私が考えだしたメトロノームの使い方とカウントのやりかたを説明する。自分の演奏にあわせてメトロノームを鳴らすとき人しばしばメトロノーム音を1拍目に鳴らすだろう。しかしそれ以外にもたくさんの鳴らし方がある。特に欧米起源のポップス音楽を演奏するとき2拍目4拍目で鳴らすことがとても大切だ。メトロノームをどの拍で鳴らすべきか、その考え方とやりかたを説明する。

カウントは以下3つのカウントがある。
  • オフビート・カウント(黒人カウント)
  • オンビート・カウント(普通のカウント)
  • 後出しオフビート・カウント(日本式オフビート・カウント)
この3つのカウントのやりかた・考え方・応用方法を説明する。

初めに

 ─── 私は12年間外国の僻地を放浪して命からがら日本に帰ってきた。帰ってきて気付いたことで最も激しく驚いたのは 日本人のリズムはものすごく変わっているということだ。これがジャズの練習方法に非常に悪い影響を与えている。

リズムは重要だ。ハーモニーが多少悪くてもリズムが良ければそれをカヴァーすることができる。ところがいくらハーモニーが良くてもリズムが悪いと全て台無しになってしまう。私はこの現象のことを音楽のリズム優位説と呼んでいる。

日本人ジャズマンは勤勉で楽器力が高く高度なテクニックを操り、ハーモニーに対する高い知識をもっている。アレンジに対する豊富な見識。そして豊富にフレーズをストックしている ─── そしてこれらの美点を全て台無しにして尚有り余るほどに非常にリズムが悪い。私はこれをとても勿体無いことだと思う。

日本に帰ってきてから色々なミュージシャンと出会うなかで色々なことに気付いた。

音楽(ジャズ)の練習でメトロノームはとても大切だが、日本国内のミュージシャンのほぼ全員がとても良くないメトロノームのならし方で練習していることに気付いた。メトロノームの正しい使い方を知っている人はほとんどいないといって良い。

音楽(ジャズ)の練習でカウント※もとても大切だが、日本国内のミュージシャンはほぼ全員間違ったカウントのしかたをしている ─── というよりはカウントの正しいやりかたを知っている人がほとんどいないし、そもそもカウントの大切さを理解している人もほとんどいない。

※ここでカウントとは声出しカウントのことをいう。声出しカウントとは楽器を演奏中声を出しながら大きな声で拍数を数えながら演奏することを指す。以下断りがない限りカウントとは声出しカウントのことをいう。

日本人のリズムの認識は世界的に見てとても独特なものだ。だから日本人が当然と思うメトロノーム/カウントの利用法で練習すると結果として身につくリズムもとても独特なものになってしまう。独特であることは自体は問題ではない。だがジャズのように日本文化にないリズムを持った音楽を演奏する場合、それはその音楽のリズムの良さを打ち消しあってしまう。

ここで私が考えたメトロノーム/カウントの使い方を説明しようと思う。ここで挙げたメソッドは、海外の人がみな当たり前の様に感じているリズムを、日本人である私が演奏しようとしたときに、必要だった訓練を体系化してまとめたものだ。以下で私が考えだしたメトロノームの使い方とカウントのやりかたを説明する。

メトロノームに対する心構え

人間のリズム感(時間分割の認識)には制約がある。これには 裏拍の叩き方 ─── 縦乗りを克服しようシリーズその17 で説明したように5つの制約が存在する。
  •  制約1・一定周期で叩くことしかできない
  •  制約2・あまり速く叩けない
  •  制約3・ほとんど正確に叩けない
  •  制約4・但し手や足など2つの可動部分を組み合わせ倍速度で叩ける
  •  制約5・乗ることにも叩くことと同じことがいえる
メトロノームを使ってタイミングを調整する過程でこのなかの特に制約1『一定周期で叩くことしか出来ない』と向き合う必要に迫られる。

裏拍の叩き方 で説明したように、メトロノームと自分のリズムを調整する際は、まるで走っている車の横に自分の車を併走させるときにアクセルを踏み込んだり緩めたりしながら調節するように、メトロノームに少しずつ加速して追いついたり、少しブレーキを踏んで減速して抜かれるのを待ったりする様にしよう。

メトロノームとドリフティング

自分のリズムとメトロノームの関係には2種類ある。ひとつは丁度の位置にあわせることだ。もうひとつは丁度の位置にあわせないことだ。

丁度の位置に音を出すときは、自分のリズムがメトロノームと完全に重なりあって音が消えるようにする。この練習が基本になる。


丁度の位置に音を出さないとはどのようなことだろうか。実はジャズには音が重なり合わない様にタイミングをずらしながら演奏する習慣がある。ジャズの複雑な不協和音が綺麗に調和するように聞こえるのは、音が重なり合わない様に楽器ごとに発音のタイミングがずれているからだ。音がずれていないとジャズとして調和しない。このことをドリフティングと呼ぼう。

ドリフティングを練習するときはメトロノームを鳴らしながらメトロノームと丁度の位置に自分の楽器の音を出すことを避けるように練習しよう。メトロノームと自分の演奏の演奏地点のずれを一定に保った状態で維持しよう。

メトロノームの音よりもタイミングが早くなることをラッシング(rushing=急いで駆け込む)と呼ぶ。逆にメトロノーム音よりもタイミングが遅くなることをドラッギング(dragging=後ろから引っ張る)と呼ぶ。

映画 Whiplash (邦題セッション)のワンシーンにこの rushing と dragging という表現が出てくる。


メトロノームをあわせて鳴らす拍

メトロノームを鳴らす時は、メトロノームを2拍目4拍目にあわせて鳴らそう。何故こう鳴らすのがよいのかを説明する方法は色々とあるが、そのなかで一番簡単な説明は2拍目4拍目にあわせるのが一般的な慣習だからということだ。メトロノームを鳴らすとき日本では大半の方々がメトロノームを1拍目と3拍目に鳴らす筈だ。だが世界中を見回してみてもメトロノームを1拍目3拍目で鳴らす人は日本にしかない。

メトロノームを1拍目と3拍目に鳴らすのはジャズの練習には向かない。何故かというとジャズでは2拍目と4拍目が強拍だからだ。ジャズでは2拍目4拍目のタイミングを丁度にあわせて1拍目3拍目のタイミングをずらすことでニュアンスを表現する習慣がある。1拍目3拍目にメトロノームを鳴らすとタイミングのずれを作る起点がジャズの一般的な慣習と逆になってしまい、ジャズミュージシャンとジャムセッションを行った時にコミュニケーションが噛み合わなくなってしまう。

メトロノームを鳴らすときは裏拍にあわせて鳴らそう。裏拍というのは偶数拍のことだ。例えば4分音符の裏拍は2拍目4拍目だ。裏拍は4分音符だけでなく全ての音価(全音符・2分音符・4分音符・8分音符・16分音符・・・)に存在する。
  • 2分音符なら2拍目
  • 4分音符なら2・4拍目
  • 8分音符なら2・4・6・8拍目
  • 16分音符なら2・4・6・8・10・12・14・16拍目
…が裏拍にあたる。

次の表は全音符〜32分音符の各音符レベルでの裏拍を一覧表にしたものだ。


メトロノームを鳴らす時は上図の黒いマス目のどこかひとつで鳴らす。

裏拍鳴らし

メトロノームは1小節に2回鳴らすのが基本だ。その1/2小節の中にある裏拍で鳴らす。その区間内に2つ以上の裏拍があったら最後の裏拍で鳴らす。

この4分音符裏拍鳴らしは最も基本となる鳴らし方だ。次の様に1小節に2回・4分音符の裏拍で鳴らす。

|□□□□|■□□□|□□□□|■□□□| 
※マス目は16分音符

8分音符裏拍鳴らしは難しいが8分音符の裏拍を感じとる非常に良い練習になる。

|□□□□|□□■□|□□□□|□□■□| 
※マス目は16分音符

次の例は16分音符裏拍鳴らしだ。

|□□□□|□□□■|□□□□|□□□■| 
※マス目は16分音符

次の例は2分音符裏拍鳴らしだ。4分音符3拍目の表拍で鳴らす。これは速いテンポから半分のテンポに切り替えるときに大切な練習になる。

|□□□□|□□□□|■□□□|□□□□|
※マス目は16分音符

表拍鳴らし/全拍鳴らし

表拍鳴らし/全拍鳴らしはやめよう。理由は 裏拍の大切さで説明した。

全ての拍のタイミングを丁度に合わせて演奏するとコンピューターミュージックの様になってしまう。コンピューターミュージックの世界ではタイミングが丁度にならないために様々なテクニックを駆使して演奏するのが一般的だ。

特にジャズではジャズでは2拍目4拍目のタイミングを丁度にあわせて1拍目3拍目のタイミングをずらすことでニュアンスを表現する習慣がある。表拍にメトロノームを鳴らすとジャズのニュアンスのつけかたができなくなってしまう。

次のような全拍鳴らしは絶対にやめよう。

|■□□□|□□□□|□□□□|□□□□|
※マス目は16分音符

|■□□□|□□□□|■□□□|□□□□|
※マス目は16分音符

4分音符全拍
|■□□□|■□□□|■□□□|■□□□| 
※マス目は16分音符

8分音符全拍
|■□■□|■□■□|■□■□|■□■□| 
※マス目は16分音符

16分音符全拍
|■■■■|■■■■|■■■■|■■■■| 
※マス目は16分音符

32分音符全拍
|■■■■|■■■■|■■■■|■■■■|■■■■|■■■■|■■■■|■■■■|
※マス目は32分音符

声出しカウントの大切さ

声出して数えながら演奏する練習のことを声出しカウントと呼ぼう。ここでは断りがない限りカウントとは声出しカウントの事を指す。

カウントしながら即興演奏する(アドリブを取る)練習はアドリブのリズムが劇的に向上する特効薬的な練習方法だ。しかしカウントは同時に劇薬的にとても難しい練習法でもある。また精神的に独特なストレスを与える面がありとても疲れる練習法でもある ─── もっとも慣れてしまえば全く疲れない作業だ。カウントすること自体に体力は全く必要がない。しかし慣れるまではその独特なストレスから無駄な緊張が体のあちこちに入ってしまい、息があがってしまって5分も続かないのが普通だ。

カウント練習するときは上記のやりかたでメトロノームの鳴らしながら練習しよう。

カウントはアドリブの上達にも大きな効果を発揮する。ジャズは即興演奏が中心の音楽だが、即興中ではリズムがとても重要な役割を果たす。楽器のテクニックがいくら優れていてもリズムが悪いと残念なことに魅力的な演奏とならない。だからジャズは楽器の演奏技術よりもリズムを適切に解釈して演奏するリズム技術の練習が重要になってくる。

楽器を一旦脇に置いて、楽器を使わずに手を叩いて声を出してカウントすることで、驚くほどに効果的な演奏ができるようになる。楽器上でメロディーを弾く時、まずカウントを使ってリズムを正しく理解したあとで演奏するとずっと効果的にメロディーを学習することができる。

カウントはリズム解釈の矯正にとても大きな効果を発揮する。アドリブソロを演奏しながら声を出してカウントする練習をすると、独力ではなかなか気付きづらいリズムの間違いに自分自身で気付くことができる。

管楽器など口を使う楽器の場合でも、ピアノなどでの口を使わない楽器を使って練習することで、リズムの矯正を行うことができる。

声出しカウントのつかいかた

カウントの使い方は3種類ある
  • 音楽を聞きながらカウントする
  • 楽器を演奏しながらカウントする
  • カウントだけする
もっともよく使われるカウントの使い方は音楽を聞きながらカウントすることだ。カウントしながら音楽を聞くと、気付かなかった音の配置の対称性に気付いたり、リズム形の規則に気付いたりするものだ。

演奏とはこうして気付いたことを楽器上で再現していくことだ。この時にもカウントが大切な役割を果たす。

カウントだけするというのは究極のカウントの使い方だ。何故かというと最終的に音楽とはカウントそのものだからだ。音楽を演奏しているとき、その時に出した音が1拍目なのか2拍目なのかは演奏している本人にしかわからない。聴者は音声として表れた拍を聞いただけではそれが1拍目なのか2拍目なのか判別することはできない。これはつまり心のなかでカウントした瞬間に音楽は既にそこに存在し、音声として表れる音楽は音楽の一部分でしかないということを表している。音楽の実体はカウントだ。だからカウントだけするというのは究極の練習方法だ。 

声出しカウントする言語について

声出しカウントする時は英語の数字で数えよう。音楽は言語と深く結びついている。ジャズやR&B・欧米の民族音楽・バロックなどの欧米圏の音楽を演奏するときは英語で数えよう。欧米の言語はゲーリック語というケルト民族が使っていた言語の影響を受けている。このゲーリック語のリズムが音楽に大きな影響を与えているからだ。これを日本語の数字で数えるとリズムの拍の順序が矛盾してしまうため正しく数えることができなくなる。言語とリズムの関係については次の記事で説明した。
逆にもし演歌や音頭を練習するなら日本語でカウントしよう。英語でカウントすると日本語のリズムを正しく数えることができない。

タイやインドの音楽でカウントするときはどうすればよいか。その現地の言語を使うのがふさわしいが私は英語でも良いのではないか、とも思っている。日本語の発音はとても特殊だが、それ以外の言語には日本語ほど大きな違いがないからだ。

カウントの発音について

以下カウントするときの読み方を『1234567890&』の11文字を使って表記する。これらは断りがない限り英語で読むこととする。


表記読み方発音記号
エンドænd/ ənd/ ən
ワンwʌn
ツーto͞o
スリーθri
フォーfɔr/ foʊr
ファイヴfaɪv
シックスsɪks
セブンˈsɛv ən
エイトeɪt
ナインnaɪn
ゼロˈzɪər oʊ

リエゾンを使って発音しよう

数字を連続して読む時は リエゾン(子音母音が連続する時切らずに連続して読み通すこと)を使って読むと読みやすい。つまり『ワン・エン・ツー・エン・スリー・エン・フォー・エン・ファイブ・エン・シックス・エン・セブン・エン・エイト・エン・ナイン・エン』をリエゾンをつけて読むと『ワ・ネン・ツー・エン・スリー・エン・フォ・レン・ファイ・ヴェン・スイク・セン・セヴェ・ネン・エイ・レン・ナイ・ネン』になる。

リエゾンなしワンエンツーエンスリーエンフォーエン
リエゾンありネンツーエンスリーエンフォーレン
リエゾンなしファイブエンシックスエンセブンエンエイトエンナインエン
リエゾンありファイヴェンスイクセンセヴェネンエイレンナイネン

声門閉鎖音を使ってアンドを発音しよう

and は急いで短く読む時はしばしば声門閉鎖音をつかって読まれる。声門閉鎖音は喉の奥を閉じるようにする音声で、標準的な日本語では使われない発音だ。 だが外国語では子音認識されており標準的発音として使われることもある。英語では glottal stop と呼ばれ ʔ と表記される。

例えば ロックンロールは  Rock'n Roll と表記されるが、この 'n が 声門閉鎖音だ。

また次のビデオでブーツィー・コリンズがandを読むときに使っている発音が声門閉鎖音だ。


このブーツィー・コリンズがこのビデオのなかで使っているのが声門閉鎖音だ。

この様に声門閉鎖音は人間がグルーヴを表現するときにとても大切な役割を果たす

声出しカウントの方法

カウントには3種類の方法がある。
  • オフビート・カウント
  • オンビート・カウント
  • 後出しオフビート・カウント
次のビデオでカウントのやりかたを説明した。

この3つのカウント方法はそれぞれ一長一短ありどれが一番よいということはない。求められるリズムに合わせて適切に使い分けよう。

オンビート・カウントについて

1234を普通の4分音符として数えて&を2拍目4拍目に対応する8分音符の裏拍に置く数え方をオンビート・カウントと呼ぼう。ビデオ中の2つ目で紹介されているカウントがオンビート・カウントだ。

|1 |2&|3 |4&|

この数え方が全てのカウントの基本になる。 

また次のカウントも使う。

|1&|2&|3&|4&|

全ての対応する裏拍をカウントしない方をメインとして扱い、全裏拍をカウントする方をサブとして扱おう。カウントを練習するときは時はまずメインを練習し、きちんと身につけてからサブを練習しよう。

小節数つきカウント

小節の先頭拍で小節数を数えるのが小節数付きカウントだ。

|1 |2&|3 |4&|
|2 |2&|3 |4&|
|3 |2&|3 |4&|
|4 |2&|3 |4&|

小節数つきオンビート・カウントは非常に難しい。特に小節数カウントをしながらアドリブを取るのはとても難しい。だが小節縦乗りを避ける為にこの練習はとても大切なので、時間を掛けてじっくりと練習しよう。小節縦乗りについては 日本人は聴こえないリズム・小節縦乗りとは何か ─── 縦乗りを克服しようシリーズその5で説明した。

後出しオフビート・カウント

8分音符1個遅らせて数えることを後出しオフビート・カウントと呼ぶ。ビデオ中の3つめが後出しオフビート・カウントだ。

|&1| 2|&3| 4|

これは阿波踊りや沖縄民謡と同じリズム認識に基づくカウントだ。味わい深いリズムで数えていると楽しくなってくるリズムでもある。またこれは世界的に見ても非常に珍しいリズムの取り方で、世界中の人に新鮮な驚きを与えるリズムでもある。また中国のポップス音楽を演奏する時にもこの数え方は有効だ。

しかしこのカウントにはジャズなどの西洋起源の音楽と真逆の構造がある。ジャズの上で後出しオフビート・カウントをやるとジャズの持っているリズムの面白さを打ち消してしまうので注意が必要だ。この原理については後述する。

小節数つき後出しオフビート・カウント

後出しオフビート・カウントにも小節数付きカウントがある。

|&1| 2|&3| 4|
|&2| 2|&3| 4|
|&3| 2|&3| 4|
|&4| 2|&3| 4|

オフビート・カウント

オフビート・カウント(赤道カウント)とは八分音符1つ分早めたカウントのことだ。ジャズで多用される8分音符オフビートを正確に認識するためのカウントだ。ビデオ中1つめがオフビート・カウントだ。

オフビート・カウントはジャズのリズムを数えることに適している。ジャズの練習をしているのに演奏がどうしてもジャズっぽくならないという状態を改善する為にオフビート・カウントは効果がある。もし練習している時に『何かどことなく音頭っぽい』『何だかお祭りっぽい』『何だか演歌っぽい』といった症状があればオフビート・カウントを試してみよう。

このカウントは私が東南アジアを放浪している時に思いついたカウント方法で、ジャズや、アフリカ・インド・タイ・インドネシアなど赤道に近い低緯度に住んでいる人達の民族音楽に共通するリズムがある。私は東南アジアを放浪するなかで彼らが音楽を数えるときしばしば8分音符1つずれたリズムを叩いていることに私は気付いた。オフビート・カウントはそのリズムを模倣したカウントだ。これらの民族音楽の上でオフビート・カウントを数えるとリズムがぴったりと一致する。当初、赤道に近い人達がやるカウントという意味でイクウェイトリアル(赤道)・カウントと名づけたが、その後オフビート・カウントという名称に変更した。

8分音符裏拍で数字をカウントし4分音符裏拍で『&(アンド)』をカウントする。

|  |  |  |&1|
| 2|&3| 4|&1|

注意すべき点は、オフビート・カウントは8分音符早い方向にずれているため、前の小節から数え始めなければいけない点だ。

このカウントはカウントする人に尻合わせ乗りを強制する。日本人は必ず1234・1234と1を先頭にして数える。これを頭合わせ乗りと呼ぶ。だが外国の人たちはしばしば2341・2341と1を後尾にして数える。これを尻合わせ乗りと呼ぶ。オフビート・カウントをする時に頭合わせ乗りで数えることは原理的に不可能だ。必ず尻合わせ乗りで数えることになる。

尻合わせ乗りについては 頭合わせと尻合わせの違い ─── 縦乗りを克服しようシリーズその18で説明した。

小節数つきオフビート・カウント

オフビート・カウントは通常、小節数付きでカウントする。注意すべき点は、オフビート・カウントは8分音符早い方向にずれているため、小節数つきでカウントするためには、1小節前から数え始めなければいけない点だ。

| 2|&3| 4|&1|
| 2|&3| 4|&2|
| 2|&3| 4|&3|
| 2|&3| 4|&4|
| 2|&3| 4|&1|

日本人と後出しオフビート・カウント

ひとつだけ非常に説明が難しい現象がある。それは日本人は何も訓練しない状態でカウントすると誰からも教わらずともみな後出しオフビート・カウントでカウントしようとするということだ。 それは誰からも何も教わっていないのにオフビート・カウントをしようとする人たちから見ると、とても奇異なことにみえる。だが日本文化の文脈でみるとそれはとても自然なことでそれの何が不自然なのか認識することすらできない。

後出しオフビート・カウントは欧米起源のジャズやバロックを演奏するときにつかうとそのリズムの魅力を打ち消してしまう。後出しオフビート・カウントを譜面上で図形的に俯瞰してみるとジャズとは真逆の方向に1拍ずれたリズム構成になっていることがわかる。

後出しオフビート・カウント |&1| 2|&3| 4|
オフビート・カウント | 2|&3| 4|&1|

8分音符を元から先駆けて数えるジャズと8分音符を元から遅れて数える邦楽 ─── これらのリズムを同時に演奏することは原理的に不可能だ。同時に演奏してしまうと、常にお互いが1拍ずれた位置を演奏することになり、お互いがお互いの足を引っ張り合うような形になってしまう。ジャズのなかに日本のリズムを取り込む場合、きちんと違いを理解してはっきりと切り分ける必要がある。

オフビート・カウントが必要な理由

実は私はカウント練習を始めた当初、何も考えずに無意識のうちにオフビート・カウントで練習していた。その方がグルーヴさせやすいと直感的に感じたからだった。だが当時私はオフビート・カウントを邪道と考えていたためオンビート・カウントに自分自身を矯正した。オンビート・カウントで数えても厳しい修練を乗り越えれば必ずスイングする筈だと私は考えていた。その後2年程度は練習したがいくらやってもスイングしないことに悩み始めた。ある日オフビート・カウントに戻したところ、驚くほど簡単にスイングすることに気付いた。

それがきっかけでオンビート・カウントでスイングすることが難しい理由について考えてみた。その理由はいくつかあるが、一番大きな理由は、オンビート・カウントの方でスイングさせようとすると裏拍を強調しようとしたときに全ての拍が「アンド!アンド!アンド!アンド! 」と全てアンドになってしまうことから、自分が何拍目を演奏しているのか見失いやすいことだ。見失わないようにするために自分の心のなかでカウントしている4分音符を強く意識する必要がでてくる。するとどうしても認識の比重が4分音符に偏ってしまう。このことからジャズで8分音符をずらして認識することは邪道ではなくむしろスイングするために必要なことだと気付いた。

70年代以降のジャズでは8分音符は常にスコッチ・スナップス(裏拍を先に表拍を後に演奏する様に順番が入れ替わっている)になっているのが基本なので、カウントするときも8分音符だけは最初からずれた形で数えた方が演奏しやすい。スコッチ・スナップスについては 頭合わせと尻合わせの違い ─── 縦乗りを克服しようシリーズその18で説明した。

何故こうなるのかを厳密に考えていくと、数学の難しい数論の世界に入っていくようだ。私は数学者ではないのでその理由の詳細はわからない。恐らく人間は、拍(4分音符)を中心にリズムを認識しており、それに数字を割り当てている以上、4分音符よりも長いもの(マルチプライ)は数えることができる。だがその数え方だと、それより小さな拍(サブディビジョン)は数えられない。つまり最初から2分の1ずれた場所で数えることで、その問題を解決できるのかも知れ
ない。

乗り換えとは

乗り換えとはカウントをしながらカウントを止めずに異なるグルーヴを持ったカウントに切り替えることをいう。例えば8ビートのリズムを演奏している時、同じテンポのまま演奏を止めずにそのまま16ビートの演奏に移行することを『8ビートから16ビートに乗り換えた』といおう。乗り換えは私が考案した用語だ。

乗り換えにはカウントする上でもう少し違った意味合いを持っている。カウントしながら4分音符裏拍を強調している時、カウントを止めずグルーヴを維持したまま8分音符裏拍の強調に移行するのはやってみると案外と難しく、練習が必要な作業だということがわかる。乗り換えはこのグルーヴ維持したまま違うグルーヴに移動する練習でもある。

この様にある音価の裏拍のグルーヴから違う音価の裏拍のグルーヴに移動することを特にアフタービート乗り換えと呼ぶ。

全てのリズムパターンは裏拍の組み合わせでできている。次の表は全種類の音符について全ての音符を一覧化したものだ。つまりリズムパターンを作る作業とは、この一覧表の任意の段を選んで、その(中の任意の)裏拍をリズムパターンに加えるという作業の繰り返しだ。


乗り換えとは、ある段の裏拍を違う段の裏拍に入れ替えることをいう。これはリズムにインパクトを与える手法の基本だ。

オフビート・カウント上で乗り換え練習

4分音符裏拍→2分音符全拍

次の様に小節数付き基本オフビート・カウントをしている時に&を2分音符に換えると次のようになる。

| 2|&3| 4|&1| (&が4分音符の裏拍)
─────────────
| 2|&3| 4|&2|
| 2|&3| 4|&3|
| 2|&3| 4|&4|
| 2|&3| 4|&1|
─────────────
      ↓
|&2| 3|&4| 1| (&が2分音符の全拍)
─────────────
|&2| 3|&4| 2|
|&2| 3|&4| 3|
|&2| 3|&4| 4|
|&2| 3|&4| 1|
─────────────

4分音符裏拍→2分音符裏拍

次の様に小節数付き基本オフビート・カウントをしている時に&を2分音符裏に乗り換える。これは半分のテンポにテンポチェンジすることと同じだ。


| 2|&3| 4|&1| (&が4分音符の裏拍)
─────────────
| 2|&3| 4|&2|
| 2|&3| 4|&3|
| 2|&3| 4|&4|
| 2|&3| 4|&1|
─────────────
      ↓
| 2| 3|&4| 1| (&が2分音符の裏拍)
─────────────
| 2| 3|&4| 2|
| 2| 3|&4| 3|
| 2| 3|&4| 4|
| 2| 3|&4| 1|
─────────────

 2分音符裏拍→全音符裏拍

全音符の裏拍は2小節に1回起こる。2分音符裏拍から全音符裏拍に乗り換えるパターンだ。

| 2| 3|&4| 1| (&が2分音符の裏拍)
─────────────
| 2| 3|&4| 2|
| 2| 3|&4| 3|
| 2| 3|&4| 4|
| 2| 3|&4| 1|
─────────────
      ↓
|&2| 3| 4| 1| (&が全音符音符の裏拍)
─────────────
| 2| 3| 4| 2|
|&2| 3| 4| 3|
| 2| 3| 4| 4|
|&2| 3| 4| 1|
─────────────

ポリリズム乗り換え

 次のように3拍のポリリズムと組み合わせたパターンも面白い。

─────────────
|&2| 3| 4|&1|
| 2| 3|&4| 2|
| 2|&3| 4| 3|
─────────────

このパターンは3小節で繰り返されるので、12小節パターン(ジャズ・ブルース)と同じ長さになる。

|&2| 3| 4|&1|
─────────────
| 2| 3|&4| 2|
| 2|&3| 4| 3|
|&2| 3| 4|&4|
| 2| 3|&4| 1|
─────────────
| 2|&3| 4| 2|
|&2| 3| 4|&3|
| 2| 3|&4| 4|
| 2|&3| 4| 1|
─────────────
|&2| 3| 4|&2|
| 2| 3|&4| 3|
| 2|&3| 4| 4|
|&2| 3| 4|&1|
─────────────

これと基本オフビート・カウントを乗り換えてみよう。

4分音符オフビート強調→基本カウント

1拍目と3拍目を省略してオフビート・カウントをすると4分音符オフビートが強調される。この4分音符オフビート強調パターンと基本オフビート・カウントを乗り換えるのはむずかしい。


|  |&3|  |&1|4分裏拍強調オフビート・カウント)
─────────────
|  |&3|  |&2|
|  |&3|  |&3|
|  |&3|  |&4|
|  |&3|  |&1|
─────────────
      ↓
| 2|&3| 4|&1| 基本オフビート・カウント)
─────────────
| 2|&3| 4|&2|
| 2|&3| 4|&3|
| 2|&3| 4|&4|
| 2|&3| 4|&1|
─────────────

後出しオフビート・カウント→オフビート・カウント乗り換え

後出しオフビート・カウントからオフビート・カウントへの乗り換えについて説明する。とてもむずかしい乗り換えだが、皮肉なことに都内でジャムセッションに出場すると一番最初に求められるリズム乗り換えでもある。

─────────────
|&1| 2|&3| 4|(基本後出しオフビート・カウント)
|&2| 2|&3| 4|
|&3| 2|&3| 4|
|&4| 2|&3| 4|
─────────────
      ↓
| 2|&3| 4|&1| 基本オフビート・カウント)
─────────────
| 2|&3| 4|&2|
| 2|&3| 4|&3|
| 2|&3| 4|&4|
| 2|&3| 4|&1|
─────────────

後出しオフビート・カウントとオフビート・カウントには常に1拍のリズム位置の違いがある。つまり乗り換える瞬間に
  • 後出しオフビート・カウントに乗り換える時は1拍減らす(遅らせる)
  • オフビート・カウントに乗り換える時は1拍増やす(進める)
  • 小節数を数える場所を1拍ずらす
また頭合わせと尻合わせの乗り換えになるため、場合によっては最大で4拍の感覚調整を行う必要があるだろう。



コツとしては小節ごとに
1234・1234・

2341・2341・
と頭のなかで交互に数える練習をしておくことだ。

オフビート・カウントとオフビート乗り換えの関係を思いついた経緯

この章は私がオフビート・カウントとオフビート乗り換えの関係を思いついた経緯について説明したい。この章は読み飛ばして構わない。

オフビート・カウントをしながら4分音符のオフビートを数えるのは案外と難しい。これはアフタービートのとても重要な要素『アフタービート乗り換え』ととても深く関連した問題だ。

次のビデオはオフビート・カウントをしたまま、同時に4分音符のオフビートを強調する練習の模範演奏をコンピューターに演奏させたものだ。


同時に8分音符のオフビートを中心に数えたまま4分音符のオフビートを強調すると結果的に【&3・&1・&3・&1】…と数えることと全く同じことになるのだが、何故そうなるかについては、しばらく考えてみる必要がある。

というのも私は当初【2&・4&・2&・4&】…と8分音符オフビートを4分音符オフビートよりも先にカウントしていたのだが、このカウントにはどうしてもリズムにいつも違和感がつきまとっていた。私はこの違和感の来る場所を特定しかねていたのだが、ある日これを練習しているときにふと、この 【2&・4&・2&・4&】というカウント方には4分音符のオフビートが強調されていないからではないか、と気付いた。このカウントのやりかたでは8分音符のオフビートを強調しているだけで4分音符のオフビートが強調されない。

この状態で4分音符を強調する為にはどうすればいいのか考えたのだが、ひょっとしたら4分音符オフビートを8分音符の装飾音と考えて先に数えれば良いのではないか、と思ったのだった。やってみたら非常に効果的だということがわかった。

だが私はここで気付いたのだが、8分音符1つ分早く数えている=8分音符オフビートを数えている状態で、4分音符オフビートを強調するというのは、思ったよりもずっと難しいことだということに気付いた。つまりオフビート・カウントをするときも&を先に数えるようにはっきりと意識して練習する必要がある。

要約すると、オフビート・カウントをしているときに、&を先に数えることで4分音符のオフビートを強調することができ、 &を後に数えることで8分音符のオフビートを強調することができる ─── こうすることで、4分音符オフビート強調と8分音符オフビート強調を自由に乗り換えることができる。

私はこのことをアフタービート乗り換えと呼んでいる。

オフビートを強調した演奏はスリリングだ。そのスリルの根源は先が読めない予測不能さだ。その予測不能さを生み出すものこそがアフタービート乗り換えだ。&を先に読むか後に読むかという小さな違いが、8分音符オフビートが強調されるか4分音符オフビートが強調されるかという大きな違いとなって耳に届く。聞く人にとっては次の強拍が8分裏に来るか4分裏に来るか全く読めない ─── これが聞く人にスイング独特なスリル感を与え、これがスイングというリズムの基礎になる。

8分音符3つ喰い弱起とオフビート・カウント

数字上8分音符早く数え、そのままの状態で4分音符1つ分早く数える。これは即ちジャズやR&Bで非常に頻繁に表れる常套句である8分音符3つ『食った』弱起に相当する。8分音符3つ食い弱起はアフタービート乗り換えそのもののリズムだ。

つまりこれを演奏するとき、8分オフビートにアクセントを於くか4分音符オフビートにアクセントを置くかを機敏に入れ替えることは新鮮なリズムを維持するために非常に重要な要素になる。

このカウントだとリズムの構造的にジャズ独特なリズム構成である尻合わせに入ることができない。おいっちにージャズおじさんと同じなのだということに気付いた。2&・4&というのは、8分オフビートよりも4分オフビートを後に数えていることになる。これはつまり私がこのブログでも紹介しているおいっちにージャズおじさん と同じだ。


終わりに

演奏上達にはとにかく声出しカウント練習が大切だ。

声を出してカウントすることなど誰でもできる。そんなことで楽器が上達するならみんな上達するに決まってる!と思うかも知れない。たしかにそのとおりなのだ。だがこれは実に時間の掛かる鍛錬で習得はとても難しい。
 
ドラマーのクリス・コールマンが「1日最低でも3時間はカウント練習しろ!」と言っていたが、これは実際それくらいに長い時間の掛かる練習でもある。私自身も声出しカウント練習を始めようと思いたってから毎日3時間程度練習した。だが実際に声出しカウントしながらソロが取れるようになるまで3年程度かかった。

歩きながらもカウント、座ってもカウント、走ってもカウント、仕事しながらもカウント、遊んでいてもカウント、寝てもカウント、起きてもカウント…それくらいの気概がなければなかなかマスターできない。

声出しカウントなど子供でもお年寄りでもできるとても簡単なことだ。だけどとても気長に続けなければ、なかなかマスターできないものかも知れない。

だが声出しカウントをマスターしたら、目の前の霧がパッと晴れたようにリズムが明快に理解できるようになった。どんなリズムが来ても即座に対応できるようになった。声出しカウントはとてもつらい鍛錬だったがその効果は素晴らしいものがあった。

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更新記録:
(Mon, 03 Feb 2020 23:32:09 +0900) アフタービート乗り換えの内容をこちらに転写した。
(Tue, 04 Feb 2020 00:00:35 +0900) 加筆訂正した。
(Tue, 04 Feb 2020 03:08:19 +0900)タイトルを『イクウェイトリアル・カウントとは』から『正しいメトロノームとカウントのつかいかた』に変更した。
(Tue, 04 Feb 2020 13:40:50 +0900) 加筆訂正した。
(Tue, 04 Feb 2020 17:33:38 +0900) 加筆訂正した。
(Tue, 04 Feb 2020 20:21:53 +0900) 加筆訂正した。
(Tue, 04 Feb 2020 21:02:51 +0900) 加筆訂正した。
(Tue, 04 Feb 2020 23:13:09 +0900) 後出しオフビート・カウントからイクウェイトリアル・カウントへの乗り換えを追加した。
(Wed, 05 Feb 2020 00:47:38 +0900) 加筆訂正した。
(Wed, 05 Feb 2020 02:29:26 +0900) 加筆訂正した。
(Wed, 25 May 2022 09:47:15 +0900)イクウェイトリアルという名称をアップビートに変更しました。
(Wed, 25 May 2022 21:29:36 +0900)アップビートという名称をオフビートに変更しました。
(Wed, 25 May 2022 22:24:21 +0900)ノーマル・カウントをオンビート・カウントと名称の変更を行いました。

著者オカアツシについて


小学生の頃からプログラミングが趣味。都内でジャズギタリストからプログラマに転身。プログラマをやめて、ラオス国境周辺で語学武者修行。12年に渡る辺境での放浪生活から生還し、都内でジャズギタリストとしてリベンジ中 ─── そういう僕が気付いた『言語と音楽』の不思議な関係についてご紹介します。

特技は、即興演奏・作曲家・エッセイスト・言語研究者・コンピュータープログラマ・話せる言語・ラオ語・タイ語(東北イサーン方言)・中国語・英語/使えるシステム/PostgreSQL 15 / React.js / Node.js 等々




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