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2019年1月6日日曜日

小節にも裏拍がある ─── 縦乗りを克服しようシリーズその5 (oka01-zjsxxwhbcasnnrhr)

僕は、日本人にはどうやっても正しく聴きとることができないリズムがあることに気付いた。それを紹介したい。


最近、僕の演奏は、アナクルーシス(アウフタクト)を多用するようなスタイルに変わってきた。

海外に出てから10年以上経って、色々な外国語が話せるようになって日本に帰ってきたら、いろいろな複雑なリズムが理解できるようなっていることに気付いた。僕は、おお喜びで色々と練習して、いろいろネタを仕込んだ。満を持して、関東近郊のジャズ系ジャムセッションに参加して、それを試してみるのだが、結果はどうもよくなかった。

何故かというと、僕が演奏するとしばしばリズムセクションが崩壊してしまうからだ。小節数が合わなくなり、拍数が激しく増減して、演奏地点を見失ってしまう。それだけでなく、リズムセクションは、すっかりむくれてしまって口もきいてくれなくなる。

僕には全く悪意はないのだが、リズムセクションの彼らは、僕に強い不快感を持ち、敵意すら持っている様だった。そのことに関しては素直に非礼を詫びて、平身低頭謝罪するよりない。

だが何故、こういう演奏の崩壊が起こるのだろうか ─── 僕は、それが起こる理由について、非常にはっきりしたビジョンを持っている。それをここで説明してみたい。

ここで起きている現象を僕は、小節縦乗りと呼んでいる。

小節縦乗りとは

この問題は、「呼びかけと応答(コール&レスポンス)」 を使ってメロディーを作ろうとしたときにしばしば起こる。

「呼びかけと応答」とは、例えるならば、ソロ側が「おーい」と呼びかけ、リズムセクションが「なんだー」と返答する様に、メロディーを紡ぐことだ。ソロ中にアドリブでこのようにしてメロディーを紡ぎ出していくというのは、ジャズやR&Bなどの音楽では定番の方法だ。

「呼びかけと応答」といっても、リズム・セクションは必ずしも返答する必要はない。応答がなくとも、そこに心地よい空間が生まれる。

それが「呼びかけと応答」だ。

 ─── の筈なのだが、日本でこれをやろうとすると、なかなかうまくいかない。

何故だろうか。

問題を具体的に言葉で表現するとこの様な感じだ。

A:おーい
B:なんだー
A:おーい
B:なんだー

と演奏していると、いつのまにかリズムセクションがずれて

A・B:おーいなんだー
(空白)
A・B:おーいなんだー
(空白)

と同時になってしまう。或いは、

(空白)
A:おーい
(空白)
A:なんだー

と演奏していると、気がつくと伴奏の小節数が狂っており、

A:おーい
(空白)
A:なんだー
(空白)

と意図しない順番に変わってしまう。

この様にメロディーとリズムセクションが、まるで噛み合っていない会話のようにぎこちなく、まるで子供がシーソーで遊んでいるように「ギッタンバッコン」してしまい、どうやっても収まりが悪くなる。

僕はこの症状を、小節縦乗りと呼んでいる。

小節縦乗りを理解するためには、まず逆順構成(後述)をきちんと理解する必要がある。

日本人はしばしば、逆順構成のリズムを正しく聴きとることができないのだ。

逆順構成が何故起こるのかを説明する前に、日本人が聞き取れないリズムの具体的な例を紹介しよう。

日本人が気が付かない「聞き違い」

ヒゲダンスというコントをご存知だろうか。これはかつて毎週土曜日夜8時に放送していたコメディ番組「8時だよ全員集合」の中で1980年頃に演じられていたコントの1つだ。

ヒゲダンスとグーグル検索する
ヒゲダンスとYouTubeで検索する



当時このコントは、大変に流行した。いい音楽を効果的に使って可笑しさを盛り上げるのはドリフターズの持ち味だったが、このコントはその好例といえるだろう。コントと共に、このノリのよいメロディーも有名になった。

それが「ヒゲダンスのテーマ」だ。



「ヒゲダンスのテーマ」として有名になったこの曲には、実は元ネタがある。Teddy Pendergrass の Do Me だ。



これを聞いて僕は、おや、と違和感を感じた。ヒゲダンス版と比べると、何かが大きく違う。これを読んでいる皆様は、気付かれただろうか。アルバム版で、もう一度よく確認してみよう。


ヒゲダンス版とオリジナル版と比べると、コール&レスポンスの順番が完全に逆になっている事に気付かれただろうか。

この曲のリフは、AパターンとBパターンの2種類のパターンの組み合わせでできている。

Aパターン
Bパターン

この曲は、実はBパターンから曲が始まっている ─── つまり冒頭のAパターンは、この曲のイントロだ。歌が始まる部分がこの曲の頭だが、頭はBパターンが演奏されている。

ところがヒゲダンス版は、イントロがなく頭でAが演奏されている。恐らく編曲者は、冒頭のAがイントロ部であるということを見落としており、Aが頭になっているパターンと聞き違えたのだ。つまりヒゲダンス版は、オリジナル版と真逆の順番で演奏している。

オリジナル:BABA…
ヒゲダンス:ABAB…
 
実は、黒人ミュージシャンが作る曲は、しばしばこのように、不安定感を狙ってわざと逆の順番に変えて演奏される。僕がヒゲダンスの順番の違いに気付いたのは、このことを知っていたことによる面が大きい。

この様に、敢えて順番を『逆に』することで、不安定感と前進する疾走感を表現する方法のことを、ここでは逆順構成と呼んでみたい。

逆順構成とは

次のビデオは、古い90年代のヒップホップ曲だが、不安定感を狙って順番を逆にしていることがとてもわかりやすい好例なので、見てみる。


これは、What's Up Doc, Can We Rock という名前の曲だ。曲の中でも何度も連呼されている。だがこの時、これを連呼する順番が意図的に逆にされている。

日本人の感覚で考えると、次のような順番で歌詞を配置するだろう。

1234
ワッツアップドックキャンウィーロック・・・・・・・・・・・・

だが実際には上記のようではなく次のようになっている。

1234
ロック・・・・・・・・・・・・ワッツアップドックキャンウィー

これは『1・2小節目』と『3・4小節目』の順番を逆にしていると考えられる。この様に曲の構成を意図的に不安定な順番にすることによって、次々に次の音を聞きたくなる効果を生み出すことができる。

この手法が逆順構成だ。

ヒゲダンスのオリジナル曲は、この逆順構成を使っている。(※ 或いは、特にこの場合では、フレーズの先端を1拍目に揃えるのではなく、フレーズの後端を1拍目に揃えている、と考えることも出来る。この考え方について、詳しくは、日本語のイントロで説明した。)


呼びかけと応答で見る逆順構成

「呼びかけと応答」(コール&レスポンス)とは、2人の歌手が交互に歌う方式のことだ。

A:おーい
B:なんだー
A:おーい
B:なんだー

僕はこれが、日本人と外国人を比べると、全く逆の順番で演奏されていることに気付いた。

日本の音楽で「呼びかけと応答」は大抵の場合、

1小節目:A:おーい
2小節目:B:なんだー
3小節目:A:おーい
4小節目:B:なんだー
────────────
1小節目:A:おーい
2小節目:B:なんだー
3小節目:A:おーい
4小節目:B:なんだー

と演奏される。これを読んでいる方は恐らく、「それが当然だ」と感じるのではないだろうか。だがこれは、実は、日本人だけがやる非常に独特な演奏順番だ…ということをここで指摘したい。海外の人(欧米だけではなく、東南アジア・中東も含み)は、しばしばこのような順番を、意図的に避ける。

 海外ではしばしば、1小節ずらして演奏される。

0小節目:A:おーい
────────────
1小節目:B:なんだー
2小節目:A:おーい
3小節目:B:なんだー
4小節目:A:おーい
────────────
5小節目:B:なんだー
6小節目:A:おーい
7小節目:B:なんだー
8小節目:A:おーい
────────────
7小節目:B:なんだー



海外の曲では、このように「呼びかけと応答」が、4小節のグループをまたぐように演奏される。日本の音楽には、この「小節またぎ」がない。これが日本の音楽の非常に大きな特徴になっている。

なお、ここで0小節目というのは、「アナクルーシス(アウフタクト)」或いは「ピックアップ」などと呼ばれ、曲が始まる前に先行して入るメロディーの事を指す。この様な逆順構成の配置になっている曲構成では、必ずと言っていいほど登場する手法だ。

海外の呼びかけと応答

海外の音楽での「呼びかけと応答」をきいてみよう。



このビデオは、ゴスペル音楽の著名なグループ「ルーサーバーンズとサンセット・ジュビレー」の演奏だ。ゴスペル音楽は「呼びかけと応答」を多用する音楽だ。この曲では、主役のボーカリストが歌うタイミングは、必ず2小節目・4小節目で、「あいのて」が入る小節は、1・3小節目になっている。

つまり言ってみるならば、応答が先にあり、呼びかけが後にくる。これは、日本人の一般的な感覚と逆だ。だが、これはこの曲に限らず、ゴスペルの「呼びかけと応答」では非常に一般的な順番だ。

日本人の感覚で考えると、「応答」が先で「呼びかけ」が後に見えるのだが、実は海外の人の感覚では、決してそういう認識ではない。海外の人から見ると、依然として「呼びかけ」が先で「応答」が後だ。だが、海外の人は、メロディーを必ず「アナクルーシス(アウフタクト)」と共に考えており、先頭の小節は決して1小節目ではない。海外の人々から見ると、1小節目が来る前から既に音楽は始まっている。だから1小節目が応答になっていないと、数のつじつまがあわない

これが海外の人の一般的な感覚なのだ。

1小節目が来る前から既に音楽は始まっているというアナクルーシス(アウフタクト) の感覚については、日本語のイントロに書いた。

日本の呼びかけと応答

日本の呼びかけと応答を聞いてみよう。






このビデオは、ピンキーとキラーズの「恋の季節」だ。このビデオ中、主役の歌手が歌うタイミングは、1・3小節目で、間の手が入る小節は、2・4小節目になっている。

1小節目:A:わーすれられないのー
2小節目:B:わーすれられないのー
3小節目:A:あーのひとがすきよー
4小節目:B:あーのひとがすきよー

アジアの呼びかけと応答

実はこの「恋の季節」のメロディーは、どういう経緯によってかは全くわからないのだが、海を超えてタイの民謡として定着している。(あるいはピンキーとキラーズがタイのメロディーを模倣して日本に輸入した、という可能性もあるが、いずれにせよ経緯ははっきりしない。)

それが、このビデオの冒頭に出てくる。( เกี่ยวข้าวดอรอแฟน )


タイのバージョンでは「呼びかけと応答」の順番が日本のバージョンと違うことに気付かれただろうか。

0小節目:A:わーすれられないのー
──────────────────
1小節目:B:わーすれられないのー
2小節目:A:あーのひとがすきよー
3小節目:B:あーのひとがすきよー
4小節目:A:わーすれられないのー
──────────────────


タイのバージョンの「恋の季節」は、「小節またぎ」が入っている。

タイの音楽には、欧米の音楽と同じく、0小節目=アナクルーシス/アウフタクトが使われていることがわかる。


小節単位のアフタービート

アフタービートとは(日本では)一般的に裏拍を強調することと考えられているが、実は、裏拍と表拍を逆の順番にして演奏することと見ることができる。この感覚は、外国語を話すときに使う感覚に深く根ざしている。そのことについて 何故、日本人は縦乗りなのか で説明した。

この逆順構成は、言ってみれば小節単位でつくるアフタービートと見ることもできる。

アフタービートは本質的に、音を2つのグループに分けて代わりばんこに演奏することに他ならない。よって、4分音符・8分音符・16分音符・2分音符・全音符だけでなく、小節・2小節・4小節・変拍子の連符の全てにおいて、アフタービートを構成することができる。

このことは後に書いてみようと思っている。(本日2019年1月6日現在、まだ書き終わっていない。)

逆順構成がない日本

海外のメロディーは、しばしば2小節目・4小節目にメロディーが置かれて、1小節目・3小節目は意図的に空間が開けられている。 U2 の With or Without You を聞いてみよう。




緑色マーカー部分がアナクルーシス(アウフタクト)で、赤色マーカー部分が通常のメロディー本体だ。この曲では1小節目・3小節目は、休みになっており、2小節目・4小節目のみメロディー本体が配置されている様子が見て取れる。


必ずしも、海外のメロディーは2・4小節目にメロディー本体が置かれる...という訳ではないのだが、日本のメロディーほぼ必ずといっていい程に1小節目・3小節目にメロディーが置かれていることと比べると、とても対象的ではないか。

日本人が知らない日本人のクセ「小節縦乗り」

これまで見てきた様に、日本人には、1小節目・3小節目の1拍目にドドーンと音が入らないと気がすまないという非常に強いクセがある。1小節目・3小節目で空白を開けられて、2小節目・4小節目でメロディーが入るメロディーを耳にすると、小節数を数え間違えてしまう。

─── つまり日本人はしばしば、海外のミュージシャンと演奏した時に、正しく数えつづけることができない。

これが「小節縦乗り」の問題点だ。

だが本当の問題の核心点は、この日本人独特なクセの存在に、大多数の日本人ミュージシャンが気付いていないことだ。

(つづく)

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更新記録:
(Sun, 06 Jan 2019 04:59:25 +0900) V0.1
(Sun, 06 Jan 2019 06:45:22 +0900) V0.2
(Sun, 06 Jan 2019 07:10:59 +0900) V0.3
(Sun, 06 Jan 2019 08:35:19 +0900) V0.4
(Sun, 06 Jan 2019 08:58:34 +0900) V0.5 (公開)
(Sun, 06 Jan 2019 14:22:56 +0900) With or Without You の歌詞の間違いを修正した。

(Tue, 08 Jan 2019 04:34:46 +0900)『小節縦乗りについて』から『日本人は聴こえないリズム・小節縦乗りとは何か』に変更した。

(Tue, 08 Jan 2019 06:20:28 +0900) 縦乗りを克服しようシリーズのタイトル全面見直しを行った。
(Tue, 27 Aug 2019 02:25:06 +0900)ビデオのリンク切れを修正した。関連記事のキーワードを修正した。

เกี่ยวข้าวดอรอแฟน のビデオリンク切れを修正した。เกี่ยวข้าวดอรอแฟน という曲名を記した。(Fri, 29 Jan 2021 23:24:05 +0900)
表題を『日本人は聴こえないリズム・小節縦乗りとは何か』から『小節にも裏拍がある』に変更しました。(Sun, 22 May 2022 20:30:34 +0900)

著者オカアツシについて


小学生の頃からプログラミングが趣味。都内でジャズギタリストからプログラマに転身。プログラマをやめて、ラオス国境周辺で語学武者修行。12年に渡る辺境での放浪生活から生還し、都内でジャズギタリストとしてリベンジ中 ─── そういう僕が気付いた『言語と音楽』の不思議な関係についてご紹介します。

特技は、即興演奏・作曲家・エッセイスト・言語研究者・コンピュータープログラマ・話せる言語・ラオ語・タイ語(東北イサーン方言)・中国語・英語/使えるシステム/PostgreSQL 15 / React.js / Node.js 等々




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