8分早い声出しカウントを小節数と共に数えるのはとても難しい。少しでも油断すると小節数を間違えてしまう。この状態で声出しカウントしながら即興演奏するのはほとんど不可能だ。何故すぐ間違えてしまうのだろうか ─── それには理由がある。
同時に起こる2つの要素について
小節入りで8分早い声出しカウントを行うと次の2つの事柄が同時に発生する。
- 全ての音符がオフビートになり尻合わせ
- 小節数自体がオフビートになっている
これが同時に起こるということが小節数入りの8分早い声出しカウントを行うときに難しくなる理由だ。順を追って見ていこう。
尻合わせリズムが起こる
普段4小節をカウントするときは次の様になるだろう。
※以下カッコ内は小節数。
(1)& | 2& | 3& | 4& |
(2)& | 2& | 3& | 4& |
(3)& | 2& | 3& | 4& |
(4)& | 2& | 3& | 4& |
このパターンを8分早い声出しカウントとして行うと小節の向きが逆になる。
&2 | &3 | &4 | &(1) |
&2 | &3 | &4 | &(2) |
&2 | &3 | &4 | &(3) |
&2 | &3 | &4 | &(4) |
この様に1から始まっていたカウントが1で終わるカウントになる。このことをここでは尻合わせと呼ぶ。小節数を数える時の小節数が必ず一番後ろになるので、まずこれに慣れなければいけない。
オフビート倒置が起こる
次に、同時に小節がオフビートになるパターンを考えよう。自由な発想で即興演奏をしていると、意識的にせよ無意識的にせよ小節(全音符)でのオフビート強調がメロディー上に現れる。この小節オフビート強調が尻合わせと同時に起こった時に小節数の数え方が変則的になることに注意が必要だ。これが小節数入り8分早い声出しカウントの難しさの原因だ。
小節数でオフビート強調するということを具体的にわかりやすく考えてみると、小節を2グループに分けて片方を強調するということだ。つまりこれまで小節数を
1234
と全て同じ強さで演奏していた。 これを単調リズムと呼ぶ。
1234
この様に2群に分ける。この2群に分けたリズムを復調リズムと呼ぶ。このときに先に現れた拍をオンビート、後に現れた拍をオフビートと呼ぶ。この時にオンビートを強調するとオンビート強調になり、オフビートを強調すればオフビート強調になる。
なお、この時に強調する拍を先に演奏するか後に演奏するかという非常に重要な問題が起こる。本来は強調する拍を先に演奏しなければいけないのだが、我々日本人はこれを無意識のうちに後に演奏してしまうという非常に強い習性がある。これについては頭合わせと尻合わせの違いで詳しく論じたので参照してほしい。
ジャズではこれを先に演奏しなければいけない。この様にオフビートをオンビートに先駆けて演奏することをオフビート倒置とここでは呼ぶことにする。
上記例でオフビート強調とオフビート倒置を行った場合
4123
と4が先に演奏されるようになる。
これらの事柄を踏まえてこのオフビート倒置を小節数に適用してみる。
小節オフビート
上記の小節数入り声出しカウントでの小節を2グループに分けて片方を強調すると次のようになる。
&2 | &3 | &4 | &(1) |
&2 | &3 | &4 | &(2) |
&2 | &3 | &4 | &(3) |
&2 | &3 | &4 | &(4) |
1と3が強調されている。つまりこれは小節オンビートだ。これを小節オフビートとして成立させるためには次の様に順番を変更しなければいけない。
&2 | &3 | &4 | &(4) |
&2 | &3 | &4 | &(1) |
&2 | &3 | &4 | &(2) |
&2 | &3 | &4 | &(3) |
これで小節オフビートになった。
なお、これが2周目以降で順番が次のように自然に入れ替わって聞こえることによりスイングが発生する。
&2 | &3 | &4 | &(3) |
&2 | &3 | &4 | &(4) |
&2 | &3 | &4 | &(1) |
&2 | &3 | &4 | &(2) |
2小節オフビート
前章で小節オフビートの作り方を見てきた。これを更に2小節単位でのオフビート構成を考えてみると、上記例では2小節単位のオンビートになっていると考えることができる。これをオフビート構成に変更してみる。
&2 | &3 | &4 | &(2) |
&2 | &3 | &4 | &(3) |
&2 | &3 | &4 | &(4) |
&2 | &3 | &4 | &(1) |
これで2小節単位で見た時にもオフビート構成として成立するようになった。
これが2周目以降で順番が次のように自然に入れ替わって聞こえることによりスイングが発生する。
&2 | &3 | &4 | &(1) | |
&2 | &3 | &4 | &(2) | |
&2 | &3 | &4 | &(3) | |
&2 | &3 | &4 | &(4) |
小節オフビートの特徴
小節オフビートを作ると次のような特徴が現れる。- 曲が始まる前の小節が【強】
- 曲の始まりの小節が【弱】
- 曲の始まった後の小節が【強】
曲の開始が弱で始まる ─── この数え方は聴者の予想を裏切ることになる。こういう意外性が音楽に効果的に新鮮さを与える。
小節オフビートの普遍性
僕はオフビートについて理論的に考えることで2小節でのオフビートを予想した。実際に使ってみて気付いたのだが、これは何も新しいことではなく、むしろ古くからある黄金期のジャズのリズムそのものだということだった。
上記のビデオはホレスシルバーの The hippest Cat in Hollywood だ。はっきりした1小節オフビートが現れる。 ホレス・シルバーは小節オフビートフレーズの宝庫だ。つたない弾き方なのにつたなく聞こえない絶妙なタイミング ─── 細かく見ると不器用に揺れているけど、大きく見るとはっきりした周期性がそこにある。これが独特なグルーヴ感となって耳に届く。それが小節オフビートの魅力だ。
小節オフビートはむしろ古いジャズほど多用されている。
周回遅れ
2小節オフビートの例を良く見てみると、実は8分音符1つ早くずれているという以外は全てずれていないカウントと同じパターンだ。
普通のカウント
(1)& | 2& | 3& | 4& |
(2)& | 2& | 3& | 4& |
(3)& | 2& | 3& | 4& |
(4)& | 2& | 3& | 4& |
8分音符4分音符2分音符全音符(小節)2全音符(2小節)まで全ての音符がオフビート構成になったカウント
&2 | &3 | &4 | &(2) |
&2 | &3 | &4 | &(3) |
&2 | &3 | &4 | &(4) |
&2 | &3 | &4 | &(1) |
この2つは、パターンとして見るとほぼ同じだ。それは数字が全てオフビート配置に変わったことによって一周回周って元に戻ったからだ。 オフビートカウントから見ると通常のカウント(オンビートカウント)は周回遅れになっている。
実際に演奏するにあたって、同じ1拍目であっても、それが前周の1拍目として演奏するものなのか、或いは今周の1拍目として演奏するものなのかによって全く違った意味合いが生まれる。
予想よりも早い音符は聞く人に新鮮な驚きを与える。周回遅れの音符は聞く人に退屈な印象を与える。
4小節オフビート
前述の2小節オフビートと全く同じことが4小節でも考えられる。
&2 | &3 | &4 | &(2) |
&2 | &3 | &4 | &(3) |
&2 | &3 | &4 | &(4) |
&2 | &3 | &4 | &(5) |
&2 | &3 | &4 | &(6) |
&2 | &3 | &4 | &(7) |
&2 | &3 | &4 | &(8) |
&2 | &3 | &4 | &(1) |
これでは4小節単位で見た時にオンビートになる。これの順番を入れ替えたものが次のものだ。
&2 | &3 | &4 | &(6) |
&2 | &3 | &4 | &(7) |
&2 | &3 | &4 | &(8) |
&2 | &3 | &4 | &(1) |
&2 | &3 | &4 | &(2) |
&2 | &3 | &4 | &(3) |
&2 | &3 | &4 | &(4) |
&2 | &3 | &4 | &(5) |
これで4小節オフビートになった。
これが2周目以降で順番が次のように自然に入れ替わって聞こえることによりスイングが発生する。
&2 | &3 | &4 | &(5) |
&2 | &3 | &4 | &(6) |
&2 | &3 | &4 | &(7) |
&2 | &3 | &4 | &(8) |
&2 | &3 | &4 | &(1) |
&2 | &3 | &4 | &(2) |
&2 | &3 | &4 | &(3) |
&2 | &3 | &4 | &(4) |
アフリカ系音楽の8小節1パターン説
アフリカ系のミュージシャンは踊りでも音楽でも大抵の場合8小節単位で数えている。これは僕がアフリカ系アメリカ人の方々の習慣を見ていて独自に気付いたことで、何かはっきりした根拠となる文献などがあるわけではないので飽くまでも仮説だ。彼らはしばしば声出しカウントをしながら踊っているが、そのカウントの周期は大抵の場合8小節だ。
これまで見てきたオフビートのパターンは理論的に考えると無限に存在する。だが人間の時間の感覚から言って8小節以上のパターンを考えることに意味はないのではないか、と僕は思う。1拍が30分もある様なオフビートを作ったとして、果たしてそれは音楽的だろうか。そもそも人間はそれを認知できるのだろうか。
それは僕には判断できない。だが恐らく、現実世界でセッションするときに実践として応用する範囲内では、8小節パターンまでを練習しておけば充分なのではないだろうか。
コーラス単位でのオフビート
これは僕がこの記事を書いている時に漠然と気付いたことだが、曲の展開とは一般的に静かな部分と激しい部分が交互にやってくる。これも広い意味で考えるとオフビートと同じ法則が適用できるのではないだろうか。
この曲はソナタ形式をソナタ形式の歌にして説明している歌だ。これもよく聞いたら展開する構成上でオフビートになっているだろうか。
まとめ
これまで出てきたオフビートの声出しカウントパターンは3つある。
1小節オフビート
&2 | &3 | &4 | &(4) |
&2 | &3 | &4 | &(1) |
&2 | &3 | &4 | &(2) |
&2 | &3 | &4 | &(3) |
2小節オフビート
&2 | &3 | &4 | &(2) |
&2 | &3 | &4 | &(3) |
&2 | &3 | &4 | &(4) |
&2 | &3 | &4 | &(1) |
4小節オフビート
&2 | &3 | &4 | &(6) |
&2 | &3 | &4 | &(7) |
&2 | &3 | &4 | &(8) |
&2 | &3 | &4 | &(1) |
&2 | &3 | &4 | &(2) |
&2 | &3 | &4 | &(3) |
&2 | &3 | &4 | &(4) |
&2 | &3 | &4 | &(5) |
これらのパターンを読み上げた時、最後の1小節が次の周回の先頭に来た様に聞こえる。これがスイングの根源になる。最後の1小節が先頭に来ることを意識しながら練習しておくことが大切になる。
終わりに
とにかく理論的にわかったことを忘れないうちに書き留めるため、出来るだけ簡潔に矛盾なく表現することを重視して書いたら、まるで数学の教科書のようになってしまい、とてもわかりにくいものになってしまった。
オフビートのリズムパターンは、タイ文字を読む練習のようなものではないだろうか。タイ文字の発音規則は、表にしてしまえばとても簡単なことなのだけども、実際にそれを習得する為には各パターンに数週間ずつ時間を掛けてゆっくりと順を追って全パターン練習しなければいけない。それと同じではないだろうか。
今後そういう練習パターンをビデオなどをつかって、できるだけわかりやすく説明して行こうと思います。