日本人のリズムは何故日本的に響くのでしょうか。ジャズのリズムは裏拍強調ですが日本人がいくら裏拍を強調しても… 例え全て裏拍を弾いていても、それは日本的に響きます。何故どうやっても日本的に響くのか。それは私にとって最大の謎でした。しかし私は最近この理由が理解できました。全部表拍を演奏してそこに裏拍が1つも存在しなくても裏拍強調は裏拍強調になります ─── 裏拍がなくても裏拍が強調されるとは一体どういうことでしょうか。
とても独特な日本人のジャズのリズム
今日マイバスケットに買い物に行ったらマイバスケットのBGMにしてはとても珍しくジャズスタンダード(チャーリー・パーカーの『コンファメーション』)がかかっていました
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私はこれが大きな驚きでした。マイバスケットのBGMはいつもジャズなのですが、著作権の関係なのでしょうか、普段ジャズ・スタンダードが演奏されることはほとんどなく、ほぼ常にオリジナル曲が演奏されていたからです。しかしその日はスタンダード曲がかかっていました。
マイバスケットのBGMはとてもクオリティが高いです。録音が非常に丁寧でかつ演奏者も全員がとても高い修練を積んでいることがわかり、しかも注意せずに聞いてもなお非常に高価な楽器を使っていることがわかるほどにとても音質が良いのです。
─── のですが、演奏のいたるところに強く『日本人の癖』が滲み出ているのがマイバスケットのBGMの特徴でもあります。最初の1音を聞いただけでも日本人の演奏とすぐにわかるような日本人独特なリズムの癖があちこちに溢れ出ています。
日本人のリズム癖とは、ひとことでいえば『表拍強調(どどんがどん/337拍子)』のことです。日本人はどうやっても表拍強調リズムから逃げることができません。 これはある説によると日本語が持っているアクセントの影響なのだそうです。
そのリズムについては次の記事で詳しく論じました。
おいっちにージャズおじさんについて
8分音符裏強調の頭合わせリズムについて
世界的に見て珍しい日本の呼び掛けと応答の順番について
頭合わせと尻合わせの2つのリズムの違いについて
そして結果として、今までになかった新しいリズムが誕生します。軽快にしようとした血の滲むような厳しい努力のあとが見えるのにどことなく演歌の様で重苦しい。或いは、極めてクオリティの高いハイソな雰囲気を携えているのにどことなく盆踊り的で垢抜けない。 そんな音楽の存在意義自体が微妙に矛盾している新しいリズムの誕生です ─── その解釈はある意味とても斬新で、いつも聞く度に新しい発見があると私は思います。
私はマイバスケットのBGMは決して嫌いではありません。むしろいつも楽しみにしている程です。
『果たして今日は一体どんな日本リズムが飛び出すのか。』…そう期待しながらマイバスケットに行きます。そしてその日の買い物中に聞いたBGMに何の日本的リズムが見つからないと、むしろがっかりして帰ってきます。
日本のリズムは8分音符裏拍でニュアンスを作る
今日聞いたマイバスケットのBGMのコンファメーションは、ソロのメロディーはきちんと 尻合わせになっていましたしリズムは裏拍を強調していました。ほとんど完璧に近い内容でした ─── が、やはり聞くと日本人臭さを私は感じました。
※ 今日聞いたマイバスケットのコンファメーションのリズムを実際に音源で御紹介できないのがとても残念ですが、そのリズムの本質はこの演奏でも掴むことができます。メロディーは尻合わせになっておりリズムは裏拍強調になっているのに何故か縦乗りに聞こえる演奏の代表はルパン三世のテーマの演奏です。
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この様に、リズム形自体は完璧=尻合わせで裏拍強調なのに縦乗り的に聞こえるというパターンはこれまでもしばしば見かけました。しかしこれまで長い間それがおかしくなる理由がわかりませんでした───
しかし今日、私は聞いた瞬間にその理由がはっきりわかりました。日本人のリズムは8分音符裏拍がずれるのです。
私はこの理由が非常に長いあいだ理解できませんでした。しかしこの2〜3ヶ月集中してバンド練習を行っていたなかで、私が考えた独自考案のリズムトレーニングを繰り返しているうちに、徐々に感ぜられるようになってきた新しいリズム感覚がありました。そのリズム感覚を使うと、そのリズムが日本的に響く理由をとてもはっきりと理解できました ─── これは日本人にとって最も認識しにくい癖ではないかと思います。 私はこれが日本人ジャズが演歌的に響く最後の理由ではないか、とすら思っています。
日本のリズムとジャズのリズム認識方法の違い
日本人のリズム認識とジャズ(海外の音楽)のリズム認識の方法は全く真逆です。
日本人のリズムは8分音符表拍を合わせて裏拍をずらします。日本人は表拍を合わせるのが当たり前だと思っています。つまり日本人は8分音符裏拍がずれると指摘されてもその意味がわからないのではないでしょうか。それは本来逆でなければいけないのです。海外のリズムは8分音符裏拍を合わせて表拍をずらします。 ─── ひょっとしたら日本人であっても、そのこと自体には気付いているかも知れません。しかしそれを演奏することは決して出来ません。何故なら、日本人は8分音符表拍をずらせと言われても 8分音符表拍でリズムを数えている為に8分音符表拍をずらしようがないのです。どうすれば裏拍をずらすことができるのか。8分音符表拍をずらす為には8分音符裏拍でリズムを数えていなければいけません。
図で説明すると
日本人の演奏者はスイング量を増やそうとする時に必ず裏拍のタイミングを変えることで増やそうとします。何故なら常に表拍を基準に音符の位置を認識しているからです。これは海外の名人演奏者達と全く違うリズムの認識方法です。海外の名人達は裏拍を中心に音符の位置を認識しています。
日本人でも他の音符よりもやや早めにくる4分音符(8分音符表拍)がリズムにスピード感を与えていることには気付くかも知れません ─── しかし決してそれを同じ様に演奏することはできません。何故なら8分音符表拍を起点として数えながら裏拍を表拍の後として認識していると8分音符表拍を早めに演奏することはできないからです。その表拍自体がリズム認識の起点なのでその表拍を動かしてしまえばテンポ自体が変わってしまいます。 それは軸足に体重を乗せながら軸足を持ち上げようとするのと同じ様に無理なことです。もし8分音符表拍の位置を変えることでニュアンスを出そうとするなら、8分音符裏拍を起点としてリズムを数えなければいけません。オフビートを強調する演奏では飽くまでも軸足が裏拍にあります。軸足が裏拍にあるからこそ、表拍の位置を自由に動かすことができます。
逆に裏拍の位置が変わってしまうと起点自体が変わってしまうので裏拍強調の演奏はとてもむずかしくなります。裏拍を起点として演奏する人と表拍を起点として演奏する人は、同時に演奏することはできません。お互いに起点としている音符の位置が移動してしまうため、安定してテンポを維持することができないからです。
前裏拍と後裏拍
海外では裏拍が表拍よりも前に来ると認識します。 些細なことですがこの裏表逆順番でのリズム認識がグルーヴするリズムの基本となります。この前に来る裏拍のことを前裏拍と呼びます。 これに対して表拍の後にくる裏拍のことを後裏拍と呼びます。
日本人は裏拍をリズム起点にするというと裏拍を表拍の後にあると認識したまま、裏拍でリズムを数えようとします。それが日本人のリズム認識の順番だからです。しかし裏拍を聞いたときには既に呼応する表拍は鳴ってしまったあとです。過去になってしまった表拍のタイミング位置をコントロールすることはできません。これが日本人が裏拍を起点にしたリズムを演奏することができなくなる原理です。
前裏拍と後裏拍については頭合わせと尻合わせの違いでも詳しく論じました。
海外のリズムは8分音符表拍でニュアンスを作る
裏拍強調リズムとは裏拍を多く弾くことではない
裏拍強調リズムとは裏拍を多く弾くことではありません。極端な言い方をすると全ての拍を表拍として演奏しても裏拍強調リズムにすることができます。
例えばジャズのウォーキングベースは全て8分音符表拍(4分音符)を演奏します。これを演奏する時に8分音符裏拍を起点としてリズムを認識して演奏していれば裏拍強調リズムとしての条件を満たすことができます。
この裏拍を起点としてリズムを認識することを裏拍起点リズムと呼びます。逆に表拍を起点としてリズムを認識することをここでは表拍起点リズムと呼ぶことにします。表拍を演奏する時、表拍起点で演奏しても裏拍起点で演奏しても出てくる音自体は同じ表拍です。表拍起点で演奏された表拍と裏拍起点で演奏された表拍のふたつのどこが異なるのでしょうか ─── 違いは裏拍起点で演奏された表拍では、そのタイミングを変えることができることです。
裏拍を起点として認識したうえで他の共演者の裏拍と同期することでテンポの維持を行うことで初めて、その演奏している表拍のタイミングを自由に移動することができます。
8分音符裏拍を起点として他の演奏者とコミュニケーションを取り、8分音符表拍のタイミングずれ使ってニュアンスを表現する ─── これこそがいわゆる裏拍強調(裏拍起点リズム)の本質です。
いわゆる『早いタイミング』のジャズのウォーキングベースはこの裏拍起点を使うことで初めて演奏が可能になります。
日本人のリズムがもつ問題
表拍起点リズムでジャズは演奏できるか
日本人の表拍起点リズムは、ジャズのリズムとは全く違う考え方に基づいており、同じメロディーを演奏することはとても難しいものです。表拍を起点にするとメロディーはそこから後に向かって発展する 頭合わせになります。このことについては 頭合わせと尻合わせの違い で詳しく論じました。
表拍起点の状態で尻合わせリズムを実現するためには、表拍起点を耳にしたあとで大急ぎで次の起点への準備をすることになり気持ちの準備がとても忙しくなります。このように裏拍起点を同時に実現するのはとても複雑な処理が必要で、一般的に見てとても困難なことです。
これらの問題は裏拍起点で考えていればとても簡単になります。全ては起点音を耳にしたあとでゆっくり考えればよい話で、その後に全てが予定通りに進むため、処理が後対拍と比較して劇的に簡単になり、演奏時の気持ちに大きなゆとりが生まれます。
日本人のリズムが悪い問題の本質はリズム自体ではない
『日本人が日本のリズムを演奏して何が悪い』 ─── そうおっしゃるかたもいるかも知れません。もし演歌や音頭などの演奏を行うなら何も問題はありません。しかしジャズを演奏するならば日本人的なリズムの認識はとても大きな問題となります。
ジャズは演歌や音頭と逆のリズム認識で演奏されるため、きちんとリズムの認識を共通にしないと演奏自体が困難になってしまうからです。
グルーヴが最も大切な音楽ジャズを ───
グルーヴしなければ意味がないジャズを演奏しているのにグルーヴしなかったらジャズを演奏する意味がありません。
ビッグバンドの定番曲『スイングしなけりゃ意味ないね』を演奏しているのに、そのリズムがスイングしてないというのは、何とも皮肉なことです。
日本人のリズム認識は静のリズムであり動のリズムの特徴であるジャズのグルーヴとは真逆の要素を持っています
─── しかしそのこと自体は問題の本質ではありません。
しかし正しいグルーヴを演奏できる人がどういう訳かしばしば風紀を乱す勝手な人間と糾弾されて公然と排除されてしまう日本のジャムセッション社会の不健全さについては、指摘の余地があります。
更新記録:
(Sat, 28 May 2022 21:25:08 +0900) 最終章の題を「日本人のリズムが悪い問題の本質はリズム自体ではない」に変更しました。 『全て表拍なのに裏拍強調になるリズムの演奏方法』を『全て表拍なのに裏拍基準になる不思議なリズムの演奏方法』に変更しました。
(Sat, 28 May 2022 21:28:33 +0900) 第一人称主語を僕から私に変更しました。