尻合わせ乗りとは
日本人のリズムの最大の特徴は、フレーズの開始位置を小節の先頭にあわせることだ。つまりメロディーは小節先頭よりも後ろに構成される。これに対してジャズなどのアフリカ系民族音楽の影響を受けた西洋音楽は、フレーズの終了位置を小節の先頭にあわせる。つまりメロディーは小節先頭よりも前に構成される ─── このことを僕は僕の公式ブログ『メトロノームが鳴る前に歌い始めよう』で指摘した。メトロノームが鳴る前に歌いはじめよう ─── 縦乗りを克服しようシリーズその10
フレーズの開始位置を小節の先頭にあわせるリズムのことを『頭合わせ乗り Head Aligning Ride』と僕は呼んでいる。またフレーズの終了位置を小節の先頭にあわせるリズムのことを『尻合わせ乗り Bottom Aligning Ride』と僕は呼んでいる。
頭合わせ乗り音楽の代表は、演歌と音頭だ。この特徴は中国の古い歌謡『三字経』と共通している。この特徴を持っている音楽は世界的に見ると中国と日本以外ではほとんど見つからない。だが尻合わせ乗り音楽は世界的に見るとたくさんある。インドの音楽やタイ・ラオスの民謡・アフリカの民族音楽などがこの特徴を共有している。また日本の民謡もしばしばこの特徴を持っている。
例えば、次のメロディーは『尻合わせ乗り』のリズムで構成されている。
ここでは4小節1グループとしてメロディーの後端が小節の後端(次小節の先頭)に揃っている。
次のビデオは『頭合わせ乗り』『尻合わせ乗り』を比較してみたものだ。前半が尻合わせ、後半が頭合わせになっている。
次のビデオも同じく『頭合わせ乗り』『尻合わせ乗り』を比較してみたものだ。
尻合わせ乗りを習得する
さてジャズを演奏する時にスピード感のあるリズムを巧く演奏する為にはこの『尻合わせ乗り』を上手にコントロールすることが必要となる。これをジャズの様なコードチェンジの激しい音楽で実現しようとすると問題となることがいくつかある。ひとつは、尻合わせ乗りにするとメロディーが常に実際のコード進行を先取りするような形で進んでいくことだ。 2拍のフレーズを尻合わせで弾けば、そのフレーズは実際のコード進行よりも2拍先に進む。4拍のフレーズを尻合わせ乗りで弾くと、そのフレーズは実際のコード進行よりも4拍先に進む。このようにメロディーのコード進行はリズムセクションが演奏しているコード進行とのずれが大きくなっていき、場合によってはそのずれが1小節を超えるようになる。
実際にやってみるとずれた状態で正確に小節数を数えることは極めて難しいことがわかる。このような大きな小節のずれに安定的に対応する為に特別な訓練が必要だということがわかる。
更にインプロヴァイズ中は無意識のうちに様々な代理コードを弾いているものだが、これも実際にコード進行が起こる前に先駆けてその場で代理コードを考えていく必要がある。これは高度な訓練が必要な行為だ。
そこで僕は今回、曲をブルースに絞って考えうる代理コードを当てはめ、それを全て尻合わせ乗りによって1小節早く弾いたらどうなるかをシミュレートして譜面に起こしてみることにした。メロディーは暫定的に単純な分散和音の8分音符7音フレーズを当てはめた。
譜面上1段目が基本コード進行、そして2段目が代理コードを当てはめたコード進行、そして3段目が代理コードを当てはめたまま1小節先駆けたコード進行となっている。
ここでは考えうる最大のアフタービート長で前分散音を配置した。このパターンを実際のインプロヴァイズ中で使うのは現実的ではない。飽くまでも1小節先駆けを体感的に学習するための練習パターンとして考えて頂けたら幸いだ。
画像版も用意した。ビデオのバージョンはメロディーも共に書き込んであるが、コード進行が判りやすいようにメロディーを省いて4段組にしたものも作成した。左がメロディー付き、右がメロディーなしだ。
必ず3小節目から数え始めること
尻合わせ乗りで演奏すると必ずメロディーが曲の先頭からはみ出す。このことを英語でアナクルーシスと呼ぶ。日本語ではドイツにならってアウフタクト或いは弱起などと呼ぶ。つまり尻合わせ乗りで演奏するときは必ず4小節目から演奏を始める必要がある。そのためには必ず3小節目から数え始める。このことは強調して強調しすぎることはない。つまり曲を始めるときに「1234」と1小節目から数え始めていたらその段階で既にその演奏は死んでいる。「1234・2234・3234・4234」と数えているなかで3234と3小節目から数え始めなければ4小節目から演奏を始めることはできないのは当然のことだ。
つまり必ず3小節目から数え始めること。
極論してしまうと1小節目から始まるジャズはない。1小節目から始まっている様に見える曲でも大抵の場合曲が始まると同時に即座に2小節目を先取りし始めて前進感を失わないような配慮がされているものだ。
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