海外の色々なサイトによると「エレキギターの音が悪い!」と思った時、すぐにアンプ改善に直行しないほうがいいという。僕にもよくわからない。なんでも、ギターからアンプに信号が到達するまでに、信号はたくさんの要素を通過しており、それぞれの要素が無視できないほど音色に大きな影響を与えているという。まずは、そこをチェックしたほうがいいという。
恐らく、この記事を読むためには、ギターの音色を決定する要素についての基本的な知識が必要だ。特に、ギターの音色を決定する上で最も重要な要素=ピックアップの選定・アンプの選定について、ここでは説明しない。なお、アンプに関して調べたことは次の記事にまとめた参照して頂けたら幸いだ。
エレキギターのコンプレッションについて
ここでは、それ以外の要素・・・ケーブル・コンデンサ・ポットの動作原理について説明した。また後半でビンテージギターの音色を決める大きな要因であるビンテージコンデンサについても触れた。ビンテージコンデンサについては明らかになっていないことが多い。この記事がかかれた2017年時点で知られていたことを説明した。また僕自身が調べたことなどを加味して説明した。
これだけ科学が進んだ現代だが、ギターの音色が決まるメカニズムについてははっきりわかっていないことが多い。世間で一般的に言われている「こうやったら、こういう音が出る」・・・という方法論は、しばしば感覚的な経験に基づいた経験則でしかなく、しばしば間違っている。中には錬金術並みに合理性のないものまである。
とはいえ、近年ネットで情報が自由にやりとりされるようになり、世界中のあらゆるDIYギター職人の天才がネット上に集結、ギターの音色の秘密が徐々に白日の元にさらされてきているようだ。英語でネットを検索してみると、ギターの音色が決まる原理があちらこちらに散らばっているのが見つかる。
ピックアップとアンプ以外に、ギターの音色に影響を与える要素が、いくつかある。
- ケーブル
- ポット
- コンデンサ
1.ギターケーブルのキャパシタンス(静電容量)を変えると音が変わる
ギターから出た音声がケーブルを通ると、音声が変化する。特に、ケーブルが持っている「キャパシタンス」という値が音色に与える影響が案外と大きいということがわかってきている。キャパシタンスとは音声(交流の信号)が受ける抵抗のことで、これが大きいほど、音声の高域周波数が減衰する。次のサイトにギターケーブルの電気的な特性について非常に詳細な説明がある。
ギターケーブルについての真実(英語)
以下は、要約だ。
- ギターの出力インピーダンスは非常に高い。
- アンプの入力インピーダンスも非常に高い。
- ギターの出力インピーダンスとアンプの入力インピーダンスは、相互に影響を与える。
- インピーダンスが高いとケーブルのキャパシタンス(静電容量)の影響を受けやすくなる。
- キャパシタンスが高くなると、高周波数域の減衰が起こる。(いわゆるヌケの悪い音=ハイ落ちになる)
- アクティブピックアップは出力インピーダンスが低い。パッシブピックアップは出力インピーダンスが高い。
トランジスタアンプは入力インピーダンスが低い。真空管アンプは出力インピーダンスが高い。 - ピックアップ(低出力イ)とアンプ(低入力イ)の組み合わせは、ケーブルの影響を受けにくい。トーンコントロールがあまり効かない。
- ピックアップ(低出力イ)とアンプ(高入力イ)の組み合わせは、ボリューム全開時はケーブルの影響を受けないが、ボリュームが閉じるに従ってケーブルの影響を受けてハイ落ちが起こる。
- ピックアップ(高出力イ)とアンプ(低入力イ)の組み合わせは、常にハイ落ちが起こる。避けたほうが良い。
- ピックアップ(高出力イ)とアンプ(高入力イ)の組み合わせは、50〜60年代の主流なセッティング(真空管+パッシブピックアップ)で、ケーブルが音色に大きな影響を与える。
- バッファー(バッファ付きエフェクタ)を使うことで、ギターの出力インピーダンスを下げることができる。つまり質の良くないキャパシタンスの高いケーブルの悪影響を受けにくくなる。
- もし高出力インピーダンスのピックアップ・高入力インピーダンスのアンプを使わなければならない場合は
- できるだけケーブル長を短くする。
- できるだけ質の良いケーブル(低キャパシタンス)を利用する。
- 巻コードは避ける。キャパシタンスが高い。
- オーディオマニア的誇大宣伝されているケーブルを直ぐに信じてはいけない。キャパシタンスの高低は、しばしば値段によらない。
2.ボリュームポットの値を変えると音が変わる
ボリュームポット(可変抵抗器)の与える影響については次のサイトが詳しい。「ボリュームポットの選び方」スチュマックのホームページ(英語)
以下は、要約だ。
ボリュームポットは◯◯k/◯◯Mというような値を持っている。それがそのボリュームポットの最大抵抗値だ。ギターに使われるポットは通常、大きく分けて250k/500k/1000k(1M)の3種類がある。
- 250kは、シングルコイルに利用する。
- 500kは、ハムバッカーに利用する。
このボリュームポットの値を変えることでギターの音色が変化する。何故かというと、ギターのボリュームというものは、(しばしば直感と逆な感覚を受けるが)全閉にした時、ボリュームの抵抗値は0になり、全開にした時、ボリュームの抵抗値が最大になるようになっているからだ。
下の図式のように、ギターのボリュームが全開の時、ギターの信号は直接アンプに入る。
下の図式のように、ギターのボリュームが全閉の時、ギターの信号は全てアースに流れてしまい、アンプに信号は届かない。例えば、釘などを線とアース線の間につけてショートさせてしまうと、ギターの音は出なくなる。
ボリュームポットの選び方(英語)より引用
もしここで、下の図式のように、線とアース線の間に「抵抗」を置いたらどうなるだろうか。ほとんどの信号は、アンプに向かって進んでいく。だが、ほんの少しだが一部の信号は、抵抗を乗り越えていく。これが「高域=いわゆるハイ」だ。高域がアースに流れると、音色は暗くくすんだ温かみのある音色に変わる。
ボリュームポットの選び方(英語)より引用
この抵抗を可変抵抗にしたら、信号がアースに流れいってしまう量をコントロールできるようになるのではないか。これが「ボリュームコントロール」だ。
ボリュームポットの選び方(英語)より引用
つまり、ボリューム全開の時でも、水道の蛇口からポタポタと水が垂れる様に信号が漏れている。このポタポタと漏れる水が、ギターの高域周波数だ。この漏れ出る高域周波数が、ギターの内部の天然のイコライザの様な役割を果たしている。
抵抗値が大きければ大きい程、この漏れ出る高域を減らすことができる。もしギターの音色をもっと明るくしようとするなら、1Mのポットに交換すれば音色はもっと明るくなる。
シングルコイル・ピックアップは、ハムバッカーと比較して音色が明るい。(これも厳密に言うと、周波数特性が違うわけではなく、シングル・ハムバッカーの違いによる電気信号の大きさとキャパシタンスの相互作用によって起こる現象らしいが、ここでは省略する。)だからシングルコイルでは、敢えて耳障りなギラギラした音をカットする目的で、250kのボリュームを利用する。
500kポットを250kのポットに変えることで、音はくすんだ温かみを持った感じに変化する。250kのポットを500kポットに変えることで、音は明るくギラギラした感じに変化する。
高域の減衰が少なければ少ないほどよい…というわけでもない。ちなみに僕のギターには50kポットが付いている。音は非常に暗くくすんだな感じだ。場合によっては、更にくすんだ感じを求める為に、意図的にアンプのボリュームを上げ、ギターのボリュームを絞った状態で演奏することもある。
3.トーンコントロールのコンデンサの値を変えると音が変わる
ギターのコンデンサとして利用するコンデンサは、主に0.022μF のものと、0.047μFのものの2種類がある。0.022μFのほうが、音色が明るい音色になり、0.047μFのほうが音色は暗く温かみのある音色になる。(特に日本国内では)一般的に『ハムバッカーのギターにはしばしば 0.022μF が利用される』『シングルコイルのギターには0.047μFが利用される』と言われているが、特に決まりはないようだ。
トーンコントロールが働く原理について以下で説明する。
ギターのトーンコントロールの働き
トーンコントロールの働きについて、次のページにわかりやすい説明がある。「トーンコントロールの働き」スチュマックのホームページ(英語)
以下は、要約だ。
前節で見たように、ギターの信号の高域周波数帯は、ボリュームコントロールによって、アースへと逃げでていく。
「トーンコントロールの働き」(英語)
ここにボリュームポットの代わりにコンデンサを置いたらどうなるだろうか。コンデンサは、ボリュームポットよりも、もっと効果的にたくさんの高域周波数帯をアースに逃がすことが出来る。すると、高域周波数が逃げてしまう為、低域周波数だけがアンプに向かうことになり、ギターの音色はくすんだ温かみを持った音色に変化する。
「トーンコントロールの働き」(英語)
逃げ出る高域周波数の量をポットで調節できるようにしたものが、トーンコントロールだ。
「トーンコントロールの働き」(英語)
ギターのコンデンサの働き
ギターのコンデンサの働きについて、次のホームページに秀逸な解説がある。ピックアップの働き(ドイツ・レンマ社のホームページ © Helmuth E. W. Lemme, Munich, Germany)
以下の図は、回路のキャパシタンス(静電容量)によってピックアップの周波数特性がどの様に変化するか示したグラフだ。
ピックアップの働き(ドイツ・レンマ社)より引用
キャパシタンスが0.047μFから2.200 μF に変化するに従い、周波数ピークが低域にシフトして行く様がはっきりと示されている。
トーンポットの値を変えると音が変わる?
ボリュームポットの最大抵抗値を変えると音が変わるのと同じ理由により、トーンポットの最大抵抗値を変えても音が変わる。ボリュームコントロールと同じ原理で、トーンコントロールを全開にした時でも、ボリュームポットからは信号が漏れ出ている。よって、ボリュームポットを250kから500kへ、500kから1000kへ、と交換することで、トーンコントロール全開時の高域減衰が抑えられる筈だ。だがこれはボリュームコントロールのポット値を変えた時ほどの大きな影響は与えないと考えられる。4.エレキギターの音色についての間違った伝説
コンデンサの耐電圧によって音色は変わらない
コンデンサの耐電圧によって音色が変わるという説がある。耐電圧が高くなると音量が大きくなる、という。この説は、明らかに間違っている。参照:比べて選ぶコンデンサ2(プレミアムギター誌)
オレンジドロップは、静電容量は同一で耐電圧の異なるコンデンサを多く用意しているので、実際に試してみることもできる。音量は、変化しない。
コンデンサの種類によって音色は変わらない
コンデンサを違う種類のものに交換することで音色が変わるというが、僕はこの意見に懐疑的だ。これに関しては長い長い論争があり、今だに決着がついていない。確かにコンデンサを交換すると微妙に音色が変わる。だが実際の所、回路のキャパシタンス(静電容量)というものは、些細なことに影響を受ける。ハンダ付けのハンダの量やハンダに入ったゴミの量やハンダ付けを行った地点などにも影響を受ける。演奏中にコンデンサを触ってみるとわかるが、それだけで音色は変化する。人間が触れることで静電容量が変化するからだ。
よってコンデンサを変えて音色が変わるというのは、コンデンサ交換作業に伴って起こった回路上の変化によって引き起こされたものではないか、というのが今の僕の見解だ。
コンデンサの経年変化によって音色が変わるかどうかは不明
古いコンデンサは良い音色が出るという。ビンテージの古いオリジナルのコンデンサは、数万円という非常に高額な値段で取引されている。かくいう僕も、かつて何万円も出して高いコンデンサを買ったことがある。これは事実だろうか。
古いビンテージ物のコンデンサは 、しばしば中からオイルが流れでてしまっている。これによって恐らく静電容量が変化する筈だ。それ以外にも周波数特性に変化が表れたりすることがあるのではないか、と僕は思っている。だがこれに関して、2017年現在に僕が調べた限り、具体的に調べてネット上に記事を書いた人は、ひとりも見つからなかった。コンデンサの経年変化による周波数特性の変化というのは、ビンテージギターの音の良さを解明する為に重要なことだが、まだ解明が進んでいないようだ。
コンデンサには 自己共鳴周波数( Self Resonant Frequency )というものがあって、これを超えるとフィルタとして機能しなくなるという。古くなるとこの自己共鳴周波数が下がり、この影響で40khz前後の高域音がアンプに流れ込むようになり、ビンテージギター独特な鈴が鳴るような音が出るのではないか。そう今の僕は思っているが、定かではない。
コンデンサのインピーダンス ESRの周波数特性とは? (村田製作所のホームページ)
古いコンデンサを使うことで音色が変わるかどうかは、はっきりしない。
但し、前節で見てきたように、コンデンサの静電容量(キャパシタンス値)を変えることで音色が変わるのは、間違いがない。
5.最後に:ビンテージギターの音色の秘密
現在のギターは、ほとんどが 0.022μFのコンデンサが利用されている。0.047μFのコンデンサも利用されているが、0.022μFに比べると圧倒的に少数派だ。だが、この記事を見る限り、世界では0.1μFから0.01μFまで幅広く利用している人がいるらしい。また、比べて選ぶコンデンサ2(プレミアムギター誌)に よると、古いギブソンなどのビンテージギターには、現在ではほとんど使われなくなった 0.05μF〜0.1μFなどの大きな値のコンデンサが使われていることがあるらしい ─── つまり、ビンテージギターのサウンドを求めるなら、敢えて大きめのコンデンサを使うと上手に再現できる可能性がある。しかし、もし仮に0.06μFのコンデンサをつかいたいとしても、0.06μFのコンデンサなどどこにも売っていない…という問題がある。だがコンデンサは、複数を組み合わせることで容量を調節することができる。直列につなぐと容量は減り、並列につなぐと容量が増える。これをつかって思い通りの静電容量を作り出すことができる。
コンデンサを並列・直列につなぐ(英語)
コンデンサ虎の巻(英語)
(2017年6月17日・23:00 追記)
ビンテージ・コンデンサの謎
古くなったコンデンサは、しばしば静電容量が上がるらしい。だがこれもあまりはっきりしたことはわかっていない。参照:
Default Why do old caps increase in capacitance? (Vintage Radio)
Why do some electrolytic capacitors increase in capacitance with age? ( StackExchange )
Replacing Capacitors in Old Radios and TVs (Antique Radio)
- 古くなったコンデンサは、リーケージ(漏電?)が激しく、しばしば計測器を狂わせる為、正確な静電容量が測れない。特に電圧によって動作が変わることがあり、低電圧では定格で動作しているものが、高電圧では定格を外れたりする。この対策として、ビンテージ・コンデンサ専用の特殊な計測器があるらしい。だがビンテージコンデンサ計測器を持っている人は少ない。よって、古いコンデンサの静電容量に関しては、はっきりしたことがわからない。
- 古くなったコンデンサ(特にペーパーコンデンサ)は、空気に含まれる水分を吸ってしまう。水分は静電容量を増やすため、湿気たコンデンサは静電容量が増える。真空装置を使ってコンデンサ内の水分を減らしたら静電容量が下がった、という人もいる。だがこの説が本当に正しいか誰も検証していないので、はっきりしたことはわからない。
- 古いコンデンサは、しばしば静電容量許容誤差が大きく、誤差が −50% 〜 +100%ということも少なくない。つまり表示上0.047μFでも、0.023μFの静電容量を持っているということもありえるし、0.094μFのこともありえる。これがビンテージギターのいわゆる「当たり外れ」に影響しているのではないか。だが古いコンデンサの正確な静電容量を計測することは、1.の理由により難しいので、はっきりしたことがわかっていない。
- ギターにとって重要なのは静電容量よりも周波数特性だが、古いコンデンサの周波数特性を調べている人はめったにいない。特に古くなったコンデンサの自己共鳴周波数を測定する酔狂な人など、皆無と言ってよく、はっきりしたことはわかっていない。
可能性として、0.047μFを大きく上回るコンデンサをギターに取り付けることで、ビンテージギターのような周波数特性を真似ることができるのではないか。ここで仮に、あるビンテージギターのオリジナルコンデンサが 0.1μFだったとして、このコンデンサが定格の+100%の誤差で更に水分を含んで倍の静電容量を得たとしたら 0.4μFであったとしても、おかしくない。
前述のレンマ社のピックアップアナライザの計測グラフを見ると、ピーク周波数が 0.047μFで8khz程度・0.47μFで4khz程度に来ている様だ。コンデンサの静電容量が10倍になるとピーク周波数が1/2倍になっている。これを目安にすれば、ギター出力音声のピーク周波数を狙った位置に移動させることができるかも知れない。
2017年現在、ギターに、コンデンサを2個つけたり、0.2μF等のコンデンサを取り付けたりする人は、ほとんど皆無と言ってよいだろう。これについては、僕が自分で自分のギターに取り付けてみて検証してみようと思っている。
余談:
僕は、ジャズギタリストだ。僕は、トーンコントロールを開けない。常に全閉だ。だが時は2017年。人々はハイファイをこよなく愛し、ローファイを忌み嫌う。そんな現代において、ジャズは滅亡した音楽に他ならない。そういう滅亡音楽を演奏する民は久しく、人々はトーンコントロールを使わなくなった。人によってはトーンコントロールを取り外してしまったりする。
よって近年のギターデザインの世界では、トーンコントロールのコンデンサの静電容量を小さくすることが、流行のようだ。ビンテージギターのリイシューモデルを見ても、昔のコンデンサの静電容量までは再現しておらず、現代的な0.022μFなどが利用されているようだ。
そんな古臭い滅亡音楽の民は、躊躇なくトーンをもっと大きな値に交換するべきなのかも知れない。
ビンテージ・コンデンサの謎2
(2017年6月19日・14:00 追記)実際に2002年製ES175に 0.1μFのコンデンサを取り付けてみた。あまり具合がよくなかった。音色がこもりきってしまい、まったく音楽的な音色とならなかった。なんでビンテージギブソンはああいう不思議な音色がでるのか…。取り付けたコンデンサが、フィルムコンデンサだったからだめ…という訳ではないだろうが、原因は不明。実はビンテージのペーパーコンデンサを持っていいるが、まだ試したことがない。期待はしてないが、近日中に試してみる予定。
ビンテージ・コンデンサの謎3
(2017年6月22日・17:30 追記)ビンテージのペーパーコンデンサ(ビンテージ・スプラグ・バンブルビー/1本1万以上/買ってから10年以上放置していた)を自分の2002年製のES175に装着してみたところ、明らかにトーンの掛かりが変わった。高域の掛かりが悪くなり、こもりきらないビンテージっぽい音色に変わった。
全く期待していなかったが、成功だった。
何故こういうことが起こるのか、ということだが、古いペーパーコンデンサは、つまり「死んでいる」コンデンサーなのではないか。もともと性能の悪いペーパーコンデンサーが更に古くなることで、コンデンサーとしての性能が落ちているのではないか。
飽くまでも僕の推測だが、ペーパーコンデンサーは、古くなると自己共鳴周波数が下がってしまうのではないだろうか。通常、高域周波数だけが通過し、低域周波数は通過できないコンデンサーだが、調子が悪くなってくると自己共鳴周波数 (Self Resonant Frequency)が下がってしまうのではないか。
通常、コンデンサは自己共鳴周波数を超える周波数を通すことが出来ないが、調子が悪くなることで、自己共鳴周波数が下がり、高域の通りが悪くなってしまうのではないか。ギターのトーン回路は、ローパス回路だが、ローパスとしての機能が悪くなってしまうと、つまり、高域が通ってしまう。これがあのビンテージギター独特の、トーンをフルに絞っても、あのこもりきらない独特な鈴の鳴るような音色を奏でるのではないか。
だが実際にビンテージのES175と弾き比べてみると、やはり音色は同じではない。トーンの掛かりは同じになったが、ビンテージES175の楽器としての完成度をもたらす要素は、コンデンサだけではないのだ、と思い知った。 コンデンサは、間違いなくビンテージギターの音色を作り出す要素のひとつだろう。だがそれだけでは決してない。
何故ビンテージギターの音色は美しいのか。それは色々な人が長い年月それを弾いてきたからではないか。人が楽器を演奏すれば、いろいろな不満が出るものだ。その不満を人間が、愛情を持って根気よく修理していく。こうして人間がギターを育てて、楽器が熟成されていくのではないだろうか。
例えビンテージギターでも、持ち主ががさつならオリジナルパーツもどんどん壊れていく。音色も悪くなり、値段が下がり、打ち捨てられてしまう。だが持ち主が愛情を持って楽器をメンテナンスしていれば、不具合は修正され、音色も良くなり、値段が上がり、人々はそれを求め、それを保存する為に心血を注ぎこむようになる。
人間の手を渡りながら、50年という長い年月を淘汰されずに生き残ったギターだからこそ、音色が良い。古ければ何でもよいというものではない。
ビンテージサウンドが色褪せる日本という土壌
(2019年3月17日追記)この記事を書いてから2年近く経ったが、その間僕は知人友人の色々なビンテージギターの行く末を見る機会に恵まれた。そこでひとつ気付いたことがあるので、追記したい。
それまで非常によい音が出ていたビンテージギターが、長い年月メンテナンスを受けていくに従って徐々に『ビンテージらしさ』を失っていくという現象を数例見かけた。
ギターは弾いていくうちに痛む。大昔に製造されたビンテージギターは、長いあいだ色々な人の手をわたってメンテナンスを受けていくことになる。そのメンテナンスがそのギターの音色を形作っていく。
50年代〜60年代製のビンテージギターは米国から輸入されたものだ。輸入されたギターはそれまで米国でメンテナンスを受けてきて、その環境でその音色が作られた訳だが、それが日本に輸入されたときから日本でメンテナンスを受けるようになる。
すると最初は所謂ビンテージ的な音色が出ていてもフレット交換などを繰り返していくうちに何故かビンテージらしさを失っていく。それはメンテナンスする人の国民性のようなものがギターに反映されていくからではないか、と僕は思った。
米国人(米国人に限らずタイ人・中国人等々、日本人以外はみなそうだが)は、だいたい大雑把だ。難しいことを考えず、欲望に直行する。理屈で考えて理屈に当てはめるような行動を取らない。 ─── だが日本人は緻密で欲望に直行せず理屈で考えて物事を理屈に当てはめようとする。
日本のギター職人は「こういう風にすれば音がよくなる」「こういう風にするのが最も合理的である」という理論の知識を持ちだして、それに当てはまるようにギターを修正していく。その過程でギターからビンテージらしさが消えていくのではないか。
外人のギター職人は理屈よりも個人的な感覚で「こうするといい感じがする」「こうしたらいい感じになった」という経験則に近いものでギターを修正していく。これがビンテージらしさを生み出していくのではないか。
僕は米国に住んだことはないが、ラオ(タイ東北〜ラオス南部に住む民族)の伝統的な弦楽器ピン(三味線の祖先)の職人を見て、色々思った。 ラオの三味線はフレットがついている。今では欧米人が持ち込んだ金属製のフレットを使うのが主流だが、今でも竹ひごをニカワで留める伝統的なフレットを使っている人がいる。このラオ式竹ひごフレットは、酷い話だが雨が降ると湿気でニカワが溶けてフレットがみんな流れてしまうそうだ。
実に不合理極まりないが、実にビンテージらしい良い音がするのが、このラオ式竹ひごフレットだ。
この人は「トンサイ・タップタノン ทองใส ทับถนน 」 というラオ三味線「ピン」の名人で、80年代にペッピントーン เพชรพิณทองというタイで一世風靡した喜劇団の看板演奏者だ。
(2019年3月18日の追記終わり)
ものすごい駆け足で説明したので、ほとんど誰も理解できない恐れがある。だがここに書いてあるキーワードを元にネットを検索すれば、思い通りのギタートーンを作り出すための有用な情報をいろいろと調べることができる筈だ。
更新履歴:
2017年6月17日・23:00 追記した。
2017年6月22日・17:30 追記した。
2017年6月22日・18:30 タイトルを『ギターの音抜け改善・必勝法!まとめ』から『ビンテージギターの音色が美しくなる原理』に変更した。
2019年3月18日・0:30 追記した。
2020年1月23日・10:00 冒頭部分の要約に加筆した。