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2012年8月5日日曜日

北京語の3声の真実 (oka01-sakzrjvqptaufium)

中国語と違った声調システムを持つ日本語を母国語とする日本人にとって、中国語の声調とは馴染みがなく捉えどころのないものではないだろうか。数年に渡ってタイ語を学習してきた筆者が、北京語を学んだ時に気がついた事をメモとしてまとめてみた。

筆者は、雲南省昆明で中国語を勉強している間、常にタイ人と一緒に居た。筆者は、昆明に来た時、若干のラオ語と日常会話レベルのタイ語を話すことが出来たが、中国語は一言も話すことが出来なかったので、必然的にタイ人(ラオ人)とつるむ事が多かった。昆明にも日本人が居ることには居るのだが、大学構内から一歩も出てこない日本人留学生と一緒にいても得るものが何もない。僕は、華僑学校の華僑の人達と主に余暇を過ごした。

タイ人は往々にして中国語をビックリする様なスピードで学ぶ。日本人にとって、北京語の発音は決して容易でなく、大抵の場合なかなか通じなくて苦労するのだが、タイ人は2〜3週間も居れば日常会話程度はこなせるようになる。勿論漢字の勉強になると日本人の圧勝なのだが、年中筆記用具を持ち歩いて筆談をするわけではない。広い大陸の中国では、漢字が読めないという人も珍しくない。発音は大切だ。

僕が一緒に居たタイ人は、全員がタイ北部とラオスから来た生徒で、ラオ語かラオ語と近い関係にある方言を話す人だった。彼らの北京語の声調の認識が面白かったので、以下で説明してみようと思う。 以下で説明する事は恐らく日本人からすると盲点だ。

北京語の声調は4つあると言われている。以下で表を示す。


筆者がそうだったのだが、この2声と3声の区別が難しい。人によっては、日本人には2声と3声を聞き分けるのは無理だと断言する人も居る。

このことについてタイ人が面白いことを言っていた。タイ人に言わせると北京語の3声はタイ語のマイエークだというのだ。

マイエークというのは、タイ語の声調記号の名前だ。タイ語の声調記号は第一から第四まであり、それぞれマイエーク・マイトー・マイトリー・マイチャッタワーと呼ばれる。 これは声調の番号と一致する様になっている。(低子音時を除く)

ここでタイ語の声調表を見てみる。


マイエークは、この表上で1に相当する。

一瞥するだけで北京語の声調とタイ語の声調が似ている事を感じさせるが、日本人からは見えにくい大きな違いがあるらしい。日本人が普通に考えると、北京語の2声は、タイ語の3声に、北京語の3声がタイ語の4声に似ている、と考えるであろう。 だがタイ人はそう考えない。

興味深いことに、タイ人には、北京語の3声は、タイ語の1声として聞こえるらしい。筆者がそうだったのだが、北京語の第3声を日本人が見ると、どうしても「音が上がる」という点に注目してしまうのではないかと思う。実は、この着目点は本質的でない。ここで前述のタイ人が言わんとしている事は、タイ語の1声は低音であり、かつ北京語の3声も低音であるということだ。

事実、タイ人は北京語の3声は下がる音という認識しか持っておらず、音が上がるという認識すら持っていなかった。日本人的に考えるとそれは正しくないと感じるのだが、それで通じてしまうのだから、何も言い返せないのである。


実際、北京語の正式な教科書では、3声が3声以外の声調に連続する時は、半三声と言って下がる部分だけを発音し上がる部分を発音しないと習う。これは必ずしも正しくない。3声は下がる音と覚えたほうがずっと簡単で実践的だ。ネイティブでも、人によっては常に半三声を使い、上がる部分を発音しない。(※) 

つまり北京語の3声は下がる音であり、下がった後必ずしも上がる必要はない。(†)

このことに着目して昆明の街を歩いて居て気がついたのだが、筆者の様に明らかに外地から来た中国語がヘタクソであると思しき人に中国語を話す時は、この3声の下がる部分を極端にはっきりと下げて話す。必ずしも3声の上がる部分をはっきり発音する訳ではない。

つまり、北京語の2声は上がる音であり、北京語の3声は下がる音なのである。

… より厳密に言うと、変調が起こらない全ての3声は半三声として発音する、とも言える。変調とは、3声が連続する時、変調と言って前の3声が2声に変化する事を言う。ex) 你好 nǐ hǎo → ní hǎo



余談だが、日本人にとって、タイ語の3声と4声も区別がつきにくい物だ。一部の日本人には、ネイティブ以外に聞き分ける事は不可能だという人も居るが(日本人とは実に諦めの良い民族である)実際、筆者はタイで生活する中で、タイ人が3声と4声をきっちりと発音し分けているのをあまり見たことがない。 にも関わらず、タイ人は、字を書く時等々3声と4声を決して混同しない。何故か。

3声と4声の発音は、標準のタイ語ではこの様に似た声調になってしまうのだが、タイ語の方言に於いては、全く違う声調で発音するからだ。タイ語で4声が現れる場面は、高子音字+声調記号無しのみに限られる。 この点に於いてタイ語の方言であるイサーン語(ラオ語)でも同じだ。だが、タイ語で3声が現れる低子音時+第二声調記号の発音は、ラオ語とタイ語で異なる。タイ語では3声だが、ラオ語では2声で発音する。(イサーン語を話す人の中には3声を持たない人も居る。)

タイ語がネイティブの人は3声と4声をはっきりと発音し分けるかも知れないが、バンコクに於いてもタイ語がネイティブの人は実は案外と少ないもので、殆どの人は第二言語としてタイ語を話している。彼らは標準のタイ語があまり上手でないので、3声と4声をはっきり発音し分けているとは限らない。

だが、はっきり発音し分けていなくても、頭の中では全く別扱いなのだ。





更新記録:
・半三声に関する記述に誤りがあった為、修正した。 with special thanks to mysmsnr (Sun, 05 Aug 2012 23:46:00 +0700)

誤:実際、北京語の正式な教科書でも3声が連続する時は、半三声と言って最後の音節だけ音を上がる音として発音し、他の音節は下がる部分だけを発音し上がらないと習う。これは必ずしも正しくない。3声は下がる音と覚えたほうがずっと簡単で実践的だ。ネイティブでも、人によっては3声が連続していなくても常に半三声を使う事がある。

正:実際、北京語の正式な教科書では、3声が3声以外の声調に連続する時は、半三声と言って下がる部分だけを発音し上がる部分を発音しないと習う。これは必ずしも正しくない。3声は下がる音と覚えたほうがずっと簡単で実践的だ。ネイティブでも、人によっては常に半三声を使い、上がる部分を発音しない。

・関連記事表示の自動化を行った。(Wed, 27 Jan 2016 00:30:05 +0700)


著者オカアツシについて


小学生の頃からプログラミングが趣味。都内でジャズギタリストからプログラマに転身。プログラマをやめて、ラオス国境周辺で語学武者修行。12年に渡る辺境での放浪生活から生還し、都内でジャズギタリストとしてリベンジ中 ─── そういう僕が気付いた『言語と音楽』の不思議な関係についてご紹介します。

特技は、即興演奏・作曲家・エッセイスト・言語研究者・コンピュータープログラマ・話せる言語・ラオ語・タイ語(東北イサーン方言)・中国語・英語/使えるシステム/PostgreSQL 15 / React.js / Node.js 等々




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