筆者は、海外生活が長くなるにつれて、日本とは「鏡のない世界」であるという事を強く思わされる様になった。日本の鏡の不在性とは何か。
タイでのHIV感染率は非常に高いのだそうだ。一説によると感染者は130万人で全人口の2.1%という。 僕はタイの東北弁であると言われるイサーン語という言葉を話すことが出来るのだが、僕がこのイサーン語を話しながら生活している中で知るタイ人は極めて保守的だという事を思う。ナンパなど絶対不可能である。そういうタイ人の普段の横顔を見ている僕としては、このエイズ感染率 2.1%という数字は、実は嘘なのではないかと感じる。実はもっと少ないのではないだろうか。
日本人は往々にして語学が苦手で、タイの一般市民とコミュニケーションをとる事が出来ない事が多い。また、往々にしてそういう不器用な日本人が、外国人相手に商売する風俗街に通う事が多いように思う。 外国人相手の商売をしている人達は、決して一般的なタイ人ではない。彼らはタイ人の中でも特殊な境遇に居る人達である。彼らの貞操感覚は、タイの一般的な人が持っている貞操感覚とは全く異なる。そういうタイ人ばかりを見ているとタイ人のエイズ感染率2.1%という数字をすぐに信じてしまうかも知れないが、ごく一般的なタイ人の横顔を見ている僕としては、この2.1%という数字を見て疑わしく感じる。
タイは外国に広く開かれた国だ。国を外国に広く開き、外国から経済や文明を広く取り入れることで国内の発展を促し成功した国だ、だから外国人を排除する様な事はしない。だが外国人は、タイにやってきてお金をたくさん落としていく一方、タイ人を売春婦としか見ていない様な人も多く、中には麻薬や犯罪に手を出す者も居る。
タイ人は、外国人が思っているよりもずっと保守的だ。国内の倫理や風紀を守ることにとてもうるさい。結婚などの社会のしきたりを厳密に守ろうとする。 そんなタイ人が、国内の風紀の乱れを気にしない筈がない。だが他者と正面から対立する事を嫌うタイ人は国内の風紀を守るために外国人を排除する様な事はしない。もしここで、エイズ感染率を誇張したとしたら、これによって性風俗を乱す外人を威嚇して、国内の風紀を守ることは出来るのではないか。タイ人は、しばしばこういう駆け引きの小技を使う。
そもそもタイの人は都心部の高学歴の人や教師以外の人は、18歳くらいで結婚して子供を持つのが普通だ。それ以外の道を選ぶ人達は、一般的な人生設計から外れていると言える。日本人がバンコクで見ている(歓楽街で働く)タイ人の多くは、特殊な境遇を生きる人達だ。
日本人が普通のタイ人と付き合う事は容易ではない。日本人が、一般的なタイ人と付き合う事は、日本人が苦手意識を持っている一般的なヨーロッパ人と付き合う事よりも、はるかに難しいのではないか。タイ人と付き合う為には、タイ語が話せないことなど問題外であり、むしろタイ語が話せるだけでも不十分、方言も話せるのが当たり前である。 気づかいのレベルが高く、細かい無神経さも許さず、ルックスにもうるさい、お金もうるさい、話の面白さにも、うるさい。何に関しても非常にうるさい。タイ人は、タイ的なきめ細やかな気遣いが出来無い外人が嫌いだ。
タイ人にも外人好きという人種が居るには居る。だが外人好きなタイ人は非常に特殊な存在だ。外人と付き合うことは生活の為と割り切っており、そこに諦めを持っている。彼らは、いつも何かを我慢している。彼らは外人の傲慢さを我慢し、価値観を相手に合わせているだけだ。 普通のタイ人はこんなに我慢強くない。極論すれば、外人が好きなタイ人というのは、全員何かしらの下心を隠していると言い換えても良い。こういう人達は、特に外人で賑わう歓楽街に集まっている。そういう一部の人達だけを見て、タイ人の一般と考えるべきでない。もしもタイ人が外人好きだと思っていたとしたら、それはその人がタイの歓楽街に入り浸っているという良い証拠である。タイ人が外人好きだと考えるなら、まず最初に自分の行動をチェックすべきではないだろうか。
一方タイ人は、タイに売春目当てで来る様な外人の価値観を全否定せずに、柔らかに受け止め、包容力を持って接しているとも言える。そんな価値観の柔軟性こそ、見習うべきではないだろうか。
他人に対して包容力を持つことを何よりも大切にするタイ人は、自分たちが正しく理解されていないという事を受け入れる。外国人が自分たちに対して錯覚し、幻想を抱く事をも受け入れる。外人が持つ錯覚や幻想や受け入れるだけでなく、それに同調し共感すら示す。
タイにやってくる外国人がタイ人に対して持つ感想は、その人の姿そのものなのだ。
(初出 はてな:おかあつ日記 2011-07-02 )
参考: なぜ西洋人や日本人はタイでHIVに感染するのか 谷口 恭
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著者オカアツシについて
小学生の頃からプログラミングが趣味。都内でジャズギタリストからプログラマに転身。プログラマをやめて、ラオス国境周辺で語学武者修行。12年に渡る辺境での放浪生活から生還し、都内でジャズギタリストとしてリベンジ中 ─── そういう僕が気付いた『言語と音楽』の不思議な関係についてご紹介します。
特技は、即興演奏・作曲家・エッセイスト・言語研究者・コンピュータープログラマ・話せる言語・ラオ語・タイ語(東北イサーン方言)・中国語・英語/使えるシステム/PostgreSQL 15 / React.js / Node.js 等々
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