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2016年1月23日土曜日

バンコクのタイ字上の表記ブレについて (oka01-friedjegkwtgzlkv)

日本人はタイ国の首都のことを「バンコク」と呼んでいるが、タイ国の首都の正式名称は「クルンテープ」という。タイ人は自分らの首都を「バンコク」とは呼んでおらず、飽くまでも外国向けの名称ということになる。

では「バンコク」とは一体、何なのだろうか。


バンコクとは

「バンコク」という名称は、タイの首都の旧称だ。だが外国向けには、世界的に認知されている旧称である「バンコク」という名称を使い続けている。

首都バンコクが何故バンコクと呼ばれる様になったのかは、はっきりしておらず、いくつか説があるらしい。 チャオプラヤー川の流れの変貌で川に囲まれた島( เกาะ コ ) が出来てそこに定住したので「บางเกาะ バーンコ=島の村」と呼ぶようになり、後年に訛ってバンコクになったというのが説のひとつだ。 もうひとつは、この地域でオリーブの実(มะกอก マコーク)が採れたので、บางกอก(バーンコーック=オリーブ村)と呼ぶようになった、というのがもうひとつの説だという。

(参照

タイの首都バンコクは1971年に都内の大きな市町村の併合が行われ、同時に名称も改められた。この時、バンコクは「クルンテープ・マハーナコン」という名前に改められた。(正式な名称は138文字に及ぶ非常に長いもので、通常は省略した方の名称を使う。参照

この「バンコク」は、タイ文字では บางกอก (ba:ng ko:k バーンコーック) と綴る。

というのも、実は、区の名前として「バンコク」という名前が残っている。 タイの首都の正式名称としての「バンコク」という地名はもう存在しないが、区の名前としての名称「バンコク」は、今でも現役で使われている。

日本人などの外国人が多く住む地域は、チャオプラヤー川の東側に限定されている。実は、そのチャオプラヤー川を挟んだ対岸=西側に、かつてタクシン王朝の首都があった。ここに現在でも「バーンコーック」という地域が残っている。



เขตบางกอกน้อย (ケット・バーンコーック・ノーイ=小バンコク市)


バンコクの表記ブレについて

前述の地図画像で見たように、バンコクのタイ語のスペルは บางกอก/ba:ng ko:k だ。 แบงคอก/bae:ng kho:k ではない。これが僕は意外に感じられた。何故かというと、僕が普段耳にしていたバンコクの発音は、แบงคอก/baeng khok だったからだ。



これは、Bangkok United というタイのサッカーチームの写真だが、写真下部の横断幕に แบงค็อก ยูไนเต็ด/bae:ng kho:k yu nai ted ベーンコック ユーナイテッド と表記されていることがわかる。

現在、タイ人が「バンコク」という名称を使う時は、大抵こちらのスペルを使う。この様に「バンコク」という単語には、タイ語の正式なスペルがあるのにそちらは現在では廃れ、それと若干異なる発音を当てたスペルの方が定着している。

何故こういう事が起こったのだろうか。

僕は、このスペル表記のブレが生まれた理由を、次の様に考えてみた。

タイ首都の英語表記は、BANGKOK だ。ここで最初の「BA」に注目する。日本人は「バンコク」と表記するが、これは日本人が「A」の表記を「ア」に割り当てる習慣を持っていることによる。

だが、英語の日常的な発音では、「A」をしばしば 「ae(=日本語の「エ」に近い発音)」として発音する。英語話者は、しばしば「バンコク」を「バンコク」と発音せず、カタカナで無理やり表記をすると「ベーンコック」とでもいうべき発音に変わる。

次に「バンコク」の「コ」に注目する。 英語には ก/k の様な「無気音の子音」が存在しない。英語話者がこれを発音しようとすると、大抵「有気音」の ค/kh に訛ってしまう。よって bang kok も bang khok と訛る傾向がある。

つまり、บางกอกの英語表記「BANGKOK」を、英語として発音した音声を、更にタイ語として音写したものが แบงคอก ではないか。 つまり บางกอก/ba:ng kok を แบงค็อก/bae:ng khok と表記するのはつまり、日本語で例えるならば、「ニッポン」を「ジャパン」と表記することと同じなのではないか。

日本人から見た表記ブレの理解の難しさ

日本語を母語とする人には、この現象を理解するのが難しいのかも知れない。その理由として考えられる理由が2つある。

1.発音の違い

1. 日本語は、有気音・無気温の区別がない。ko:kは 無気音といって息を出さない様に飲み込むような音として発音する。日本人がこれを発音すると大抵、有気音に訛ってしまう。

2. もうひとつは、日本人は A を「ア」として発音することだ。 ヘボン式ローマ字の影響により、日本人はAを「ア」と認識している。だが英語の発音を学ぶにあたって、これは大半の場合において間違いだ。

例えば「BANK」を日本人は「バンク」と発音する。だが実際には極端に表すと「ベーンク」という様に発音しなければ通じない。Aを日本人が思っているよりもずっと「エ」に近い音声として発音しなければいけない。「BAND」は「バンド」ではなく「ベーンド」だ。 一方「BEND」は「ベンド」よりも口が小さく短く発音する傾向がある。

タイ語の英語表記では、このAの発音をしばしば ae と表現する。


上記のタイのクラッカー菓子の商品名称は「MAGIC」だが、写真を見ると、タイ語では เมจิก (me:jik) と表記されていることがわかる。



これはタイの「マジックリン」だ。マジックリンは知っての通り日本製洗剤だが、 MAGIC のタイ語表記が มาจิก (ma:jik)となっていることがわかる。タイ人が考えたら、恐らく(me:jik)と書いていただろう。これはひょっとしたら、日本人がタイ語表記を考えたのではないか。

この比較からも垣間見られるように、日本人は、「A」を「ア」と発音する強い訛りを持っている。

この訛りが障害となり、bang kok と baeng kok の違いを認識出来なくなっているのではないだろうか。



2.日本という外来語の存在


2つ目の理由は、『日本』という名称がそもそも外来語だからではないだろうか。

日本人は、このような発音差を理解する事が難しいのは、決して、タイ語という言語の特殊さが原因している訳ではなく、 他でもない日本語の特殊性が理解を困難にしているからではないだろうか。

そもそもだが、日本は、世界的に見ても稀な「国名が外来語」という国だ。

「日ノ本」というのは日が昇る本という意味だが、この「日ノ本」という視点は、日本人の物ではない。何故なら、日本に住み日本から出たことがない生粋の日本人が、日本から日が昇るところを拝むチャンスは、一生ないからだ。日本に住む人で自分の国が「日が昇る本であろう」などと認識している酔狂な人はいない。日本人から見ると、飽くまでも中国が「日が沈む国」である筈だ。

にも関わらず、日本人が「日ノ本」などと名乗るのは何故だろうか。

何故、日本人は「日ノ本」などという他人から見た呼称を名乗るのか・・・その理由として考えられることは、この「日ノ本」という名称が大陸人の命名だという事だ。

つまり、日本の原住民は、大陸から渡来した有力な為政者によって長い年月を掛け少しずつ支配されてきた、ということになる。

元々日本には「ヤマト」というヤマトの言葉によるヤマト人の考えた名前があった。これが「倭」に変わり「日本」に変わったのは、大陸人移民が日本に押し寄せて以降の話だ。

「倭」という名も大陸人の命名だという。「倭」という字の由来は「人に委ねる」だとされ「他人に素直でよく従う人」という意味があるのだそうだ。これも大陸人の視点から見た名称に他ならない。

その後「日本」という名称に変えられたが、これも前述した様に、大陸人の視点から見た名称だ。

世界中を見渡すと、日本には様々な呼称がある:ニッポン・ニホン・ハポン・ジャパン・ヤパン・ジャポン・ジパング・イープン・ニープン・ジープン・リーベン・ルアベン… これら全てが「日本」の中国読み Rìběn の外国訛りによって生まれている ─── 正式名称「ニッポン」「ニホン」ですら、Rìběn の訛り発音変化によって成り立っていることがわかる。

 ─── つまり、日本という国名は、外来語だ。

『タイ』も『バンコク』も、タイ語として意味のある単語だ。タイはタイ語で『人』を意味する。バンコクはタイ語で『オリーブ村』という意味だ。『タイ』や『バンコク』という名称は、つまりこれは日本で言うところの「大和言葉」のような位置にある。

つまりタイ語では、日本語の様に漢語で毒されてしまうことなく、古くからある名称を使い続けている。日本語で例えるならば、漢語の「階段(かいだん)」ではなく、大和言葉の「階(きざはし)」と呼ぶような古くからある名称を、今でも現役で守り続けている、といえる。

日本では漢語の影響で大和言葉は廃れ、地名もほとんどが漢語に置き換えられてしまった。「日本」も「東京」も、全て漢語だ。

แบงค็อก/bae:ng khok は飽くまでも外来語であり、タイ語は บางกอก/ba:ng kok だが、これは、国の名前が古来からの名称か、外来語なのかをはっきり意識することのない日本人は、このような微妙な違いに無頓着なところがあるのではないか。


日本の独特さについて

大陸の文化について理解が深まれば深まるほど明らかになるのは、日本文化の独特さだ。日本は、日本と関わってきた様々な国々の文化を片端から取り込んで日本文化として融合させている。日本文化のなかに完全に日本発祥のオリジナルな要素など何一つない。

にも関わらず、その全てのどれとも全く似ていない。日本は大変に特殊な文化を持っている。

日本という国の特殊性を理解することなしに、日本外の国を理解する事は不可能ではないだろうか。


(完)



更新記録
・初稿 (Wed, 20 Jan 2016 00:52:05 +0700)
・加筆訂正し公開 (Sat, 23 Jan 2016 14:00:29 +0700)
・加筆訂正した。 (Sat, 12 Nov 2016 18:47:57 +0900)
(旧)「タイ」も「バンコク」も、タイ語として意味のある単語だ。 つまりこれは日本で言うところの「大和言葉」のような位置にある。→ (新)「タイ」も「バンコク」も、タイ語として意味のある単語だ。タイはタイ語で『人』を意味する。バンコクはタイ語で『オリーブ村』という意味だ。『タイ』や『バンコク』という名称は、つまりこれは日本で言うところの「大和言葉」のような位置にある。

・若干の加筆訂正を行った。細かな語尾の修正を行った。(Thu, 06 Jul 2017 13:34:56 +0900)

著者オカアツシについて


小学生の頃からプログラミングが趣味。都内でジャズギタリストからプログラマに転身。プログラマをやめて、ラオス国境周辺で語学武者修行。12年に渡る辺境での放浪生活から生還し、都内でジャズギタリストとしてリベンジ中 ─── そういう僕が気付いた『言語と音楽』の不思議な関係についてご紹介します。

特技は、即興演奏・作曲家・エッセイスト・言語研究者・コンピュータープログラマ・話せる言語・ラオ語・タイ語(東北イサーン方言)・中国語・英語/使えるシステム/PostgreSQL 15 / React.js / Node.js 等々




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