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2012年4月29日日曜日

寛容さ (oka01-gjuuzmwzbhcanxuk)

─── 人には欠点があって当たり前なのだ ───
だいぶ前の事だが、ラオスでとある事業をしている日本人のSさんの事務所に遊びに行った時のことだ。丁度Sさんの事務所の前の通路が工事中だった。ラオ人の作業員が沢山来てワイワイ作業をやっていて賑やかだった。ところがSさんは、彼らの仕事ぶりがなっておらんと不満顔だった。事務所の前の通路は、以前ご自身の手で作ったのだという。その作業員たちが、Sさんの作った通路を壊して、Sさんが購入した資材を勝手に売り払ってしまったと、不満顔だった。

イライラ顔のSさんは、しまいに作業員に嫌がらせを始めた。今作業員がまさに作業している通路の端っこのコンクリートをこれみよがしに壊し始めた。「ここは、本当は僕の領土なんですよ。彼らが勝手に変えていい場所ではないんです。」 作業員はそれを見ており、かなり嫌な顔をしていた。「これ位やっても気付かないんだから、あいつらは。ほんとに。」Sさんは、作業員から見られている事に気付いていなかった。

僕はこの一部始終を見て色々なことを考えた。自分のイサーンでの生活経験上、打ち合わせなしで事務所の前の通路を壊されたりすることは、まずないだろうと思った。ましてやお金をかけて資材を購入して作ったのなら、無断で破壊される様な事は絶対にない。それをラオ人がやってしまったということは、Sさんが周囲のラオ人に「ここは僕が自分で修復したんですよ」「お金をかけて綺麗にやったんですよ」という事を周知していなかった結果ではないかと思った。ラオ人の社会は全て根回しだ。根回しが上手くいかないと全てが上手くいかなくなる。こういうところからSさんの根回しがうまくいっていなかったであろう事を感じた。

また僕は、その通路の資材を勝手に売り払われてしまったという事については、嫌がらせのメッセージが込められている事も感じた。もしその資材がSさんの自前なのだという事がきちんと周知されていたのなら、まずやらなかったことだろう。それをやってしまったという事は、その時既に彼らがSさんに何らかの不満を持っており、それに対するあてつけのメッセージがあったのではないだろうか。 まだ僕が知らないラオスの商慣行も関係しているかも知れないが。

加えて、Sさんのラオ人に対する嫌がらせは、若干的確さを欠いていると思った。何故なら、作業員は毎回同じ人が来るわけではないからだ。何も事情を知らない作業員が、いきなり知らない日本人のSさんに嫌がらせをされたら、誰だって「何だこの変な日本人は」と思うだろう。だがSさんは、その事を見抜いていなかった。

日本社会には、言って気が付かなければ、これみよがしに嫌がらせをする事によって暗黙のメッセージを送り気が付かせる、という習慣がある。だがラオの人にこういう習慣は無い。

これみよがしな嫌がらせはラオの村文化ではタブーだ。はっきり見える嫌がらせは、はっきりと悪いこととして認識されており、多くの人は悪いことをする人は報復されても仕方がないと考えている。あからさまな不満の表明行為は、ラオ文化の中で生活するに当たってとても危険なことだ。ラオ居住区に住む外人 に、気付かぬ間にタブーを犯し、殺人事件に巻き込まれて命を落とす人も多い。


ラオ人の性格は、日本人以上に日本的なところがある。人間の衝突を回避する事が最優先で、衝突を回避する為にはでまかせのウソも言う。衝突してし まったら、その衝突を止める手立てが何もないからだ。殺人事件に発展することも稀でない。ラオ農村地帯は大変な田舎なので、警察が動くことは殆ど無い。衝 突を回避する方法は、個人の話し合いしかない。だから、衝突の緊張を高める様な事を言っては絶対にいけない。


一方、人間関係の衝突回避を最優先に行動するラオ人だが、お金の交渉は案外と単刀直入で直接的な物言いをするのも面白いところだ。Sさんは色々な不満を持っており「どうせラオ人には何を言っても聞かないし」と言っていたが、それは実際の所、Sさんのラオ語力の問題でもある様な気がした。

Sさんには、ラオで生活するに当たって改善すべき点がいくつか見られた。

だが僕はSさんには何も言わなかった。Sさんが持っている文化の、ラオ人の文化との相性が悪いことを思った。Sさんは、日本人として見れば極めて良心的な人だ。それだけで充分だ。僕はSさんに非常に好感を持っている。



僕は、作業員を呼び止めた。

「こんにちは。」
「おや?君はラオ語話せるの?」
「僕はラオスじゃなくて、ウドンタニーに住んでいて、ラオ語勉強しているんです。ほらウドンタニーもラオ語話すから。」
「へー!そうか… おぅ!丁度こいつがウドン出身だよ!もうこっちに引っ越して長いがな。」
「へー!」

「いや、実はあの事務所の主人の日本人のことなんだけど、僕も同じ日本人でして、ゴメンね。日本人ってたまに言い方がキツすぎることあるから、僕もそれはそう思うんだよね。何か失礼なこといっぱいしちゃってゴメン。事務所の主人に代わって謝ります。」

何か引っかかった顔をしていた彼らの顔が、パッと明るくなった。

「いや、いいのいいの!」
「タバコ吸いますか?」
「おぅ!一本くれや。」
「僕ライター忘れちゃったんで、ライター貸してよオッチャン。」
「オゥもってけ。」


非常に気持ちの良いオッサン達だった。

ラオの社会は、村社会、それも日本以上の村社会だ。
こういう気遣いが、あとでめぐりめぐって自分に戻ってくるものではないだろうか。