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2010年12月1日水曜日

住み分け (mixi05-u459989-201012011702)

ミクシ内で書かれた旧おかあつ日記を紹介します。
住み分け
2010年12月01日17:02
「勝手にしトラックバック 第二弾」

  サポート業務とは原因を切り分けること
  http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1631289975&owner_id=1482716



(注:「サポセン」=サポートセンターの略。 一般的にカスタマーサービスセンターというが、ここでの話題の中心となっているコンピューター業界ではサポートセンターと言う呼称が一般的である。)

ラオスの山奥にサポセンを作る...という事を考えてみる。 そして、優秀なエンジニアを育てる事を目標として「問題を解決する為には物事をよく観察し洞察した上で、問題を切り分ける事が肝要です」という様な教育をする。 当然、みんな言っている意味が理解出来ない。 生産性がグングン落ちてしまうだろう。

こういう人たちと仕事をする時は、マニュアルなどを作って定形化することで、一切従業員の能力に依らずに誰であっても仕事が出来るように工夫する必要があるだろう。 そうしないと、お客さんも従業員も不幸になる。

ドイツのベルリンにサポセンを作る、という事を考えてみる。 ドイツ人のエンジニアは優秀だ。「問題を解決する為には物事をよく観察し洞察した上で、問題を切り分ける事が肝要です」なんて言う必要も無く、みんな物事をよく考えて洞察する。 ここでは観察と洞察することこそが当たり前であり、無理強いして教育するとバカにするな、とか怒られることもある。



ラオ人の顧客からジャンジャン電話がかかってくる ... ラオ人は物事を客観的に説明する能力をまったく持たない。 まったく意味不明なステータスリポートがジャンジャン送られてくる。

「何だか動かないので、教えて下さい。」とか「何かものすごい勢いで困っているんですが、どうすればいいですか?」とか「きっちりお金を払って買ったのに何だかものすごい高性能ですね(ワラ)」とか、まったく違う文脈を持つ他人に対して自分が持っている文脈を説明する事に完全に失敗している様な苦情がジャンジャン送られてくる。

そこに優秀なドイツ人のエンジニアが出て、対応に当たる。 ドイツ人は相手の持っている文脈を推測する能力を持たない。「これでは状況を判断することは出来ません」ってあっさり切り捨てる。 こうしてドンドン仕事を進めるだろう。

ラオ人のエンジニアはこういう対応はとらない。 ラオ人は自分の文脈を説明する能力が無い一方、相手の文脈を言わずして汲み取る能力は極めて高い。 ラオ人のエンジニアは、書いてある事のウラのウラを読んでいっこいっこの案件にじっくり時間をかけて調査する。 お客さんひとりひとりと酒を飲みに行って、家族付き合いまでして問題を調査するだろう。 そんなラオ人のサポセンは、電話がかかってきた瞬間に話す必要もなく相手がどんな問題を持っているか理解しているだろう。 こういうサポセンには、ステータスリポートなど必要ない。

怒って嫌味を言って止まらないクセに何を言っているかさっぱり要領を得ないお客さん達を、ひとりひとりなだめ、酒をおごり、愚痴を聞き、飯を食わせ、問題の原因が電源プラグが抜けているだけである事を発見し、客の気持ちを傷つけないようにそっとプラグを入れ、難しそうな問題を捏造した上、それを客に報告し、客を気持ちよく労りつつ、去っていくであろう。


ある日、ドイツ人の顧客が電話をかける。 ラオ人のエンジニアが対応に当たる。

ドイツ人は言う。 「○○にバグを見つけました。 僕がちょっと調べたところ、△△のモジュールの△△行目にあるメソッド呼び出しの規約が、第三版ドキュメントの○○ページで説明されている仕様と一致していないみたいです。 というのも、利用しているモジュール・A/B/CのうちAとB BとCを同時に利用しても問題が発生し無いのに、AとBを同時に利用したときだけ問題が発生するのです。 AとBはスタンダード呼び出し規約を利用しているんですが、CとAが共通で利用する機能だけスタンダード呼び出しを使っていないということが第二版機能概要で指摘されておりまして...云々」

ラオ人のサポートは、電話に出るなり、第一声...「食事はされましたか?」。 ドイツ人曰く「食事が何の関係があるんですか?」 「まず食事をして話を聞きましょう」 「問題はもう明らかになっているので、取り敢えずドキュメントを読んでください」 「まぁそういう堅いことは言わずに...」 「予定がつまっているので、取り敢えず調査報告だけお願いしますよ」「まぁまぁそう怒らないでくださいよ... 取り敢えずフランス製の良いワインが会社から支給されていますので、お持ちしましょう。」 とかいって。


ドイツ人顧客のレポートは完璧だ。 ここまで完璧なら、サポートも要らないだろう。 バグ報告して修正を待つだけだ。 ドイツ人のサポセンは小規模で済むだろう。 ドイツ人はドイツ人同士で仕事をすると非常に効率がよくなる。

ラオ人のレポートは完璧からは程遠い。 だけど、ラオ人にはラオ人のやり方がある。 ラオ人同士で仕事をすると、文字を使わない非常にスムーズなツーカーのコミュニケーションで、相手の意見を聞き間違える事もない。

ドイツ人がラオ人のやり方に合わせる時、ラオ人がドイツ人のやり方に合わせる時、彼らは非常に疲れる。

こんなギャグみたいな出来事が、日常的に起こっている国がある。

日本だ。

日本以外のほとんどの国では、人種間の住み分けがある。 だからこういうコミュニケーション上の問題が起こらない。 しかし日本は人種間の差異が顔を見るだけで判別がつかない。 だから住み分けが無い。 それでも、以前は「部落差別」とかそういう言葉で表されるような、住み分けをしていた。 しかし、それもなくなった。 ラオ人もドイツ人も同じ会社で働いている。 しかも顔を見てもドイツ人だかラオ人だか区別がつかない。 だからこういうコミュニケーション上の齟齬が原因となって発生する問題がしょっちゅう起きる。

これの唯一の解決策は、全ての人が、相手が自分と異なるということを受け入れる事だ。 解決策は、これしかない。 自分が相手と違うのだ、という事を理解するだけでは不充分で、相手も自分と違うということを理解している必要がある。

自分が相手と違うということを認めていても、相手が自分と違うということを認めていないと、コミュニケーションは破綻する。 相手が自分と違うということを認めていても、自分が相手と違うということを認めていないと、コミュニケーションは破綻する。


「相手と自分が異なる」という事を受け入れるということは、自分の思っている事を相手に伝えるということを諦める、という意味ではない。 自分の感じている事・考えた事を誰でもわかる形で言葉にして、その解釈は他人に任せるという事だ。


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出展 2010年12月01日17:02 『住み分け』

著者オカアツシについて


小学生の頃からプログラミングが趣味。都内でジャズギタリストからプログラマに転身。プログラマをやめて、ラオス国境周辺で語学武者修行。12年に渡る辺境での放浪生活から生還し、都内でジャズギタリストとしてリベンジ中 ─── そういう僕が気付いた『言語と音楽』の不思議な関係についてご紹介します。

特技は、即興演奏・作曲家・エッセイスト・言語研究者・コンピュータープログラマ・話せる言語・ラオ語・タイ語(東北イサーン方言)・中国語・英語/使えるシステム/PostgreSQL 15 / React.js / Node.js 等々




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