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2011年7月8日金曜日

手作り辞書 (限定公開) (mixi05-u459989-201107082243)

ミクシ内で書かれた旧おかあつ日記を紹介します。
手作り辞書 (限定公開)
2011年07月08日22:43
この日記は限定公開です:
他の人は、この曖昧さ、多面性に絶対についてこれないで、絶対勘違いする。



Tさんという人が居る。 この人はラオス在住で、自費ボランティアでラオス語の辞書を作っている強者で、僕個人的にはものすごく好きな人だ。 酒好きとのこと、僕も酒は嫌いでなく、今度ビールを持って遊びに行こうとすら思っている。

ところがこのラオ語の辞書なのだけど、インターネットからダウンロードしてよく吟味してみると、どうもうまくない。 非常に間違いが多い。 ラオ語にない日本語の表現を無理やりラオ語に置き換えてラオ語が意味不明になっている所や、ラオ語自体の誤解・誤読・誤訳に満ち満ちている。 素直に、せっかくの親切心と労力も、これでは台無しだと思った。

僕がTさんにあいにいったのは、この誤訳をきちんと指摘したいと思う親切心からだった。ところがTさんは、かなり頑固な人だった。 先日お会いした時にもその間違いを色々と指摘したかったのだが、まったく聞く耳を持たず、あまりたくさん指摘すると、激怒しかねない勢いだったので、結局何も言えなかった。

またTさんは、この辞書を飽くまでもラオ語を理解することよりも日本語をラオ語で説明するところに極端に重点を置いて作っているところがある。 このこだわりが結果的にラオ語の誤訳を招いている様に僕には見えるのだが、Tさんはその点に極めて強いこだわりを抱いており、異論を挿む余地が無かった。



Tさんは近年、国から助成金を得て、この辞書のパワーアップ作業に取りかかっている。 さて、僕はTさんは嫌いではないのだけど、Tさんの作る辞書が恥ずかしいレベルになってしまうことを見過ごすのも若干気が引けるのだ。


ここで色々な考え方が出来る。 本当にその人の事を好きだったら、本当の事をぶちまけて、最後の最後まで語り合って理解すべきなのだ、と考える。 だけど、これは強者の意見だ。 Tさんは60代に突入している。その事自体は構わないし、70代~80代でも精力的に研究を続ける人も居る。 だがTさんはプロの研究家ではない。 あまり体力的に厳しい批判をするのは、僕としても気が引ける。

気持ちを重視して、細かな不具合をやんわりと受け止めつつ付き合うことも出来る。 僕はこれはこれで出来ないことではないし、むしろこういう付き合いの方が好きな位なのだ。 だけど、Tさん自身は、プライドが高く、誰からも恥ずかしくない仕事をしていると自負している。 Tさん自身は、そういう「みそっかす扱い」な付き合いは、恐らく望んでいない。

実は僕が今手にしている辞書は、バージョン2だ。 バージョン1で間違いを探して書き溜めたメモを渡そうと思ったのだが、興味が無かったようで受け取ってくれなかった。 今はバージョン2があるから、もうバージョン1の細かな間違いは全部なおっているよ、と豪語してもいた。 だけど現実は、バージョン1の間違いがなおっていないばかりか、間違いが増えていた。 とても残念な感じがした。

PDIC-THAIの作者さんと比べると、その姿勢の甘さはてき面に現れる。PDIC-THAIの作者さんは、ひたすら現状の保存を重視しており、現状と違うことは一切辞書に載せないという、昆虫採集家の様な几帳面さがある。記号化にもとても高い興味を持っており、記号からの復元の忠実性の追求にも余念が無い。別にPDIC-THAIの作者さんは学者ではない。 でもこういう余念の無い姿勢を貫いている。 僕は個人的に、学者でなくても、誰もがこういう余念の無さを備えるべきだと考えているので、PDIC-THAIの作者さんに非常に高い好感を持っている。 ところがTさんは、残念な事に、ここまでのプロ的な姿勢は持っていない。 それが辞書に現れている。 タイ語語源の単語でラオ語では使われない単語がたくさん混ざっていたり、絶対にそれは違うと断言できる誤訳が散見されたりする。

そもそもラオス語の辞書を作っている人自体が少ないという事もある。 せっかく手弁当で頑張って作っているTさんのやる気をそぐような事も言いたくない。それに、恐らくだけど、あまりにも本当のことを言いすぎると、現実と自己認識の乖離があまりにもはっきりと暴露されてしまって、精神的に調子を崩して具合悪くなってしまうと思う。 それは、不本意なのだ。


僕だって年を取ったら体力が落ちる。 僕の体力が落ちたとき、30~40代の体力が旺盛な研究家に追い越されたら、悔しいと思う。 その時に「みそっかす」扱いされたいか、と思うと正直そうは思わないと思う。 とはいえ、体力の低下からくる競争力の低下は避けられない。

しかし人間、色々な多様性を持った他人の意見に柔軟に対応する、思考の柔らかさというものは、持ちつづけたいなと思う。 これは体力とは無関係だ。何才になっても恐ろしく頭の回る人というものは居る。 こういう風になりたいと思う。

しかし、何才になっても恐ろしく頭の回る人でなかったとしても、決して人間的な価値が劣るものではない。


個人的にTさんの様な、豪快で面白い人は好きだ。 酒飲みで人情が厚い関西人で、僕の好きなタイプなのだ。 一緒に居て楽しい。

だけど、仕事としてみると、相容れない物がある。

さてな。



僕はプログラマだし、辞書なんか作ったことはないが、これはもう自分で作るしかないのかなと思っている。 でもPDIC-THAIの様な素晴らしい辞書を僕が作れるのだろうか。 取り敢えず辞書ビルダー見習いから始める。


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出展 2011年07月08日22:43 『手作り辞書 (限定公開)』

著者オカアツシについて


小学生の頃からプログラミングが趣味。都内でジャズギタリストからプログラマに転身。プログラマをやめて、ラオス国境周辺で語学武者修行。12年に渡る辺境での放浪生活から生還し、都内でジャズギタリストとしてリベンジ中 ─── そういう僕が気付いた『言語と音楽』の不思議な関係についてご紹介します。

特技は、即興演奏・作曲家・エッセイスト・言語研究者・コンピュータープログラマ・話せる言語・ラオ語・タイ語(東北イサーン方言)・中国語・英語/使えるシステム/PostgreSQL 15 / React.js / Node.js 等々




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