インターネットは時代遅れ
2008年03月05日17:18
物凄く面白い記事を見つけた。 最近のインターネットがよどんで停滞しているということは、火を見るより明らかだと思う。 日本ではインターネットがまだ、ものめずらしさでいっぱいなのでそういう意見が主流になってないけど、シリコンバレーでは、とっくの昔にそれを察知していて、経営者が新エネルギービジネスなどのネット以外の業種に転業をしているというのだ。
興味深い。
でも、思うんだけど、この人たちは現状を正しく理解してない。 インターネットの最新技術っていうのは、かなりのパーセンテージで「パフォーマンス」的なところがある。 つまり、今までになかった新しいものなので、ニセモノに金粉を塗って売っても、本物かどうか見分けがつかないというところがあるのだ。 だから、あまり大した事ないものでも、ハデにパフォーマンスを打つと、「なんかすげー」的に人が信じて、それでビジネスにつなげる事が出来てしまう。 インターネットの効率のよさ、っていうのは、とても人文科学的なところがあって、なかなか数字で具体的に図りづらいので、そういうことができてしまう。 ウソがまかり通りやすいのだ。
ところが、エネルギーなんて、結果が明らかに数字で出てしまうので、インチキをやると一発でばれてしまう。 ネット企業の精神がそのまま通じるわけなんかないのだ。 こちらは、どちらかというと、日本企業的な生真面目さが有効な世界のはずで、このハデさが命のネット経営者が転進したところで何も出来るはずがない。
僕にしてみれば、ガヤガヤとうるさいインチキ技術者が居なくなって、作業が手薄になってくれるので、仕事がとてもやり易くなって、とても助かる。もっと大いにジャンジャンやってもらいたい。
◇
「IT産業に見切りをつけた?」
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/it/internet/127652
【The Economist 2008年2月23日号掲載記事について】いま、シリコンバレーで、IT業界で成功を遂げた人々が、クリーン・エネルギー産業へと次々と転身を図っており、大きな話題を呼んでいる。IT産業を立ち上げたノウハウが新しい分野でも機能することのようで、新たなトレンドとなるかもしれない。
こうした動きの先鞭をつけたのは、ドイツのソフトウェア巨人SAP社にいたシャイ・アガシである。長く次期社長と目されていたが、昨年「あと2年間は社長はない」と宣告され、見切りをつけて退社してしまった。早速、新会社を立ち上げ、今年1月にはルノーとイスラエルとの間で大きな契約をとりつけた。炭酸ガスを排出しない電気自動車の生産に取り組むことになったのである。IT産業で培った体系的な思考方法で新しいビジネスの構築を果たしたようだ。(EIS編集長 中村晃生)
こうした動きがさまざまなIT業界のリーダーたちの間で起きている。中には「ITグル」とまで呼ばれているビノド・コスラといったような人物までいる。こうした動きの背景には、「もうインターネットは時代遅れ」との思いもあるのかもしれない。だが、「自分たちの社会的良心を刺激され、巨額の富が入る事が分かっているから」との分析もある。やはり時代を先取りした経営者たちには、次の時代をしっかり見据える傾向があるのだろう。
↓↓本記事↓↓
http://www.eis-world.com/iza/080301.html
ビジネスと環境 Business and the environment
コンピュータのプロが環境の世界へ From geeks to greens
(2008年2月28日 ニューヨーク)
コンピュータ業界から環境技術の業界へと転身する経営者が増えている。彼らは成功するための条件を備えているのだろうか
長年、SAP社の次期トップとみられていたシャイ・アガシ氏は2007年3月に、少なくとも今後2年間は最高経営責任者の地位に就けないと言われ、会社を辞めた。ドイツの巨大ソフトウエア企業のSAP社は、すぐにでもトップの地位を与えるからと翻意を促したが、アガシ氏は思ってもみなかった自由を得たことで目の前に広がった新しい可能性の方が「もっとわくわくする」ことに気がついた。今年1月、アガシ氏は、新会社ベター・プレイス社の最初の契約を発表した。自動車メーカー、ルノー社およびイスラエル政府と提携を結び「イスラエルをガソリン依存から脱却させて」電気自動車への転換を進めるというものだ。
これまでのところ、情報技術(IT)の主力企業を辞めて環境技術企業に転身した経営者の中で、アガシ氏がもっとも位の高い人物だが、彼は決して1人ではない。アガシ氏の他にも、ペイパル社の共同創設者で、現在は新しい電気自動車会社の会長を務めるエロン・マスク氏がいるし、伝説的なベンチャーキャピタリスト、ビノド・コスラ氏もインターネット事業から環境ビジネスに乗り換えた大勢の中の1人だ。シリコンバレーの大手ベンチャー企業、ファウンデーション・キャピタルの共同経営者、アダム・グロッサー氏は言う。「信じられないくらい多くの才能を持つ人々が、伝統的な技術産業から環境技術へと移行しています。彼らは、自分たちの社会的良心を刺激され、さらに巨額な金がもうかることを知っているのです。つまり、資本家としての欲求を満たしながら、自分が正しいという気持ちも同時に満たすことができるのです」。
こうした技術専門家の多くは、同じシリコンバレーの、IT企業の世代継承――パソコンメーカーからソフトウエア会社、そしてインターネット企業の2つの波に至るまで――の影に隠れていたベンチャー企業に採用されている。ファウンデーション・キャピタルと伴に、クライナー・パーキンス、コズラ・ベンチャーズなどの主要なベンチャー企業がいまでは、環境事業に大きな投資をしている。
数十億ドルもの投資に賭ける大きな疑問の1つが、デジタル技術分野で経営者、事業化や投資家として成功を納めたからと言って、それが環境技術でも通用するのかという点だ。ソフトウエア分野の教祖的存在がバイオ燃料に何をもたらすことができるだろう。ガレージで電気自動車を組み立てるような創造的精神が通用するのだろうか。その答えが地球に大きな意味を持つだろう。
コンピューター・メーカー、サンマイクロシステムズ社の共同創設者として財をなしたコズラ氏は、シリコンバレーのモデルが新しい分野でも通用すると信じて疑わない。劇的な変化を実現するには、インターネットの初期に「とてつもなく間抜けな会社」と呼ばれた会社のように、過去からの経験の蓄積に縛られることのないベンチャー企業がもっとも適していると、コズラ氏が信じていることが、その理由だ。
市場リスクが急速に低下し、米国政府までもが、再生可能エネルギーとエネルギー効率への予算を増額するようになったいま、的確な技術を支える仕事がますます必要になっている。ベンチャーキャピタリストであれば、技術リスクについては、たとえそれがどんな業界のものであっても、きちんと理解して、管理することができると、コズラ氏は信じている。従来のエネルギー企業は、例えば探査リスクについては理解しており、そのリスクをとろうとするが、新しい燃料技術への投資については、同じ程度のリスクであっても不安に感じてしまうと、彼は指摘する。「ベンチャーあるいはIT産業の人たちは、ある技術が有効かどうか分からなかったり、設計が完成していなくてもとりあえず開始して走りながら修正して事業を行うことに慣れています」。また、彼らは失敗の確率が高いことにも慣れているが、うまくいった時の見返りが大きいことが期待できるのでバランスがとれるのだ。
「シリコンバレーのコミュニティがほかと大きく異なるのは、あらゆる分野の起業家と力を合わせて、初期段階の事業を形作ることができる能力を持っている点です。」環境関連企業に大金を投資している未公開投資企業、ゼネラル・アトランティック社のビル・フォード氏は指摘する。「シリコンバレーでのキャリアを通じて、技術を基盤とする企業をどのように作り、そして成長させるか学んできました」と語るのは、有害な化学薬品を使わずに水や食品を浄化する事業に特化している企業、ピュアフレッシュ社の最高経営責任者、デビッド・コープ氏だ。彼はこれまで、IBMから、ビズジェニックスというソフトウエア会社に至るまで、さまざまな技術企業で働いてきた。
インターネットはあまりに時代遅れ
アガシ氏は、SAPでの経験から自分がもたらすことができるのは、体系的に考えて問題を解決する能力だという。「私はこれまで大きな問題を小さな問題に切り分けて、その一つ一つを解決し、システム全体の中に再び組み込む方法を学んできました」。アガシ氏によれば、過去の電気自動車事業が失敗してきたのは、体系的なな考え方が欠如していたからだという。彼の解決策は、4つの部分的な対応策を1つにまとめあげた。ルノーは車を作る。ベター・プレイスは消費者が容易に車を充電できるインフラを提供する。投資家はそのインフラに資金を供給する。そして政府はゼロエミッション車を買うすべての人に、多額の減税措置を適用する。イスラエルはこの減税措置を2019年まで続けることを約束している。
事例によってはコンピュータから環境への転身は、必ずしもこれほど大きな飛躍を要するというわけではない。ほとんどのコンピュータ専門家は、もともと科学の分野で経験を積んでいる(マスク氏の場合は、物理学の学位を2日であきらめているが)。太陽光パネルの組み立ては、マイクロチップの組み立てと共通する部分がかなりある。「要するに小型化とシリコンの違いなのです」とフォード氏は言う。「ムーアの法則[訳注:半導体の集積密度は18~24カ月で倍増するという法則]は太陽光発電にも通用する」という彼の考え方が正しければ、この技術の効率性は、予測可能なペースで増大していくはずだ。環境ブームの初期の成功のひとつが、サイプレス・セミコンダクター社から分社した太陽光発電企業、サンパワー社であり、その株価の時価総額はいまや60億ドルあまりにまでなっている。
同様に、エネルギー会社は大規模な供給網を運営する。これもコンピュータの専門家にとっては慣れ親しんだ分野だ。シルバー・スプリング・ネットワーク社の最高経営責任者、スコット・ラング氏はこう語る。「2004年にペロー・システムから移ってきた当時は、エネルギー公益事業体に、ラストマイル問題を解決する技術は存在しませんでした。そこで、電力会社が顧客ともっと効率的に接続されることで大きなチャンスが生まれると、私は考えたのです」。同社は、エネルギー効率を向上させ、需要を管理するために、インターネットの技術を電力網に適用した。「これは典型的なITです」とラング氏は言う。今後15年間に世界中で新たに生じる発電能力需要のおよそ半分は、効率を上げることで満たされると彼は考えている。
環境ビジネスに取り組む技術系の経営者にとって危険性の1つは、「あまりに速い変化を期待しすぎること」だとラング氏は言う。「一夜にして何かが変わることに彼らは慣れていますが、この分野ではもっと時間が必要です」。もう1つ、少なくとも環境関連の新興企業にとって危険性は、初期段階で必要となる資本の額の認識だ。
「投じられる金額は、従来の技術系の新興企業とは天と地ほどの違いがあります」。と言うのは、アップル社をはじめとするシリコンバレーの技術企業で25年の経験を持ち、現在は米国発のセルロース・エタノール工場をジョージア州で建設しているレンジ・フュールズ社を経営するミッチ・マンディッチだ。(同社の構想は、スイッチグラス、木材、農業廃棄物などの植物性素材をバイオ燃料に変えることで、現在の効率性が悪く食料価格を高騰させる、トウモロコシを原料とするエタノール生産によって起こる問題点を克服できるという発想だ)。マンディッチ氏は、ベンチャーキャピタルからの支援以外にも、ニューヨークの投資銀行やヘッジファンドから資金を調達する術を学ばなければならなかった。環境技術関連の新興企業に必要な資金は、500~1000万ドルの規模から、早い段階で脱して5000万~1億ドルになろうとしている。「考えているよりずっと早い段階で規模は拡大していきます」。
この理由からファウンデーション・キャピタル社は、エネルギー利用を改善する企業に投資の的を絞っている。グロッサー氏は、クリーンな燃料を開発しようとする試みは「資本効率が悪い」と言う。「プラントの建設コストに数億ドルもかかる割には高い収益率が見込めないかもしれない」というわけだ。レンジ・フュールズ社をはじめとするクリーン燃料企業に投資しているコズラ氏は異なる意見だ。彼は、「石炭と石油の代替となる」ことで市場での巨大な機会があり、巨額なリスクを正当化することも可能と考えている。
また政府の政策にも注意する必要がある。環境に関する投資ということになれば、公共政策のリスクはテクノロジーリスクと同じくらい重要になる可能性がある。大統領選挙の候補者として残っている3名は、いずれも、連邦政府による強制的なキャップ・アンド・トレード(排出量取引)方式を導入して、米国の二酸化炭素排出量を抑制すると発言しているが、詳細についてはまだまだ議論の余地があり、議会も通過しなければならない。「公共政策リスクの管理は、従来のテクノロジー企業の経営者にとっては必要のないことでしたから、大量に学ばなければならないことがあります」と、クレディスイス銀行の環境ビジネス担当、ダイアナ・グラスマンは言う。
とはいえ、こうした企業は幸先のいいスタートを切った。コズラ氏は、策略にたけたワシントンのやり手としての名声をあっという間に築いている。レンジ・フュールズ社のジョージア州工場は、エネルギー省から、7600万ドルの補助金を得た。さらに、イスラエルのシモン・ペレス大統領、エフード・オルメルト首相との間に強固な関係を築いたコズラ氏は、ベター・プレイス社とイスラエル政府が「100日以内に」別の契約を結ぶだろうと、自信たっぷりに予言している。
興味深い。
でも、思うんだけど、この人たちは現状を正しく理解してない。 インターネットの最新技術っていうのは、かなりのパーセンテージで「パフォーマンス」的なところがある。 つまり、今までになかった新しいものなので、ニセモノに金粉を塗って売っても、本物かどうか見分けがつかないというところがあるのだ。 だから、あまり大した事ないものでも、ハデにパフォーマンスを打つと、「なんかすげー」的に人が信じて、それでビジネスにつなげる事が出来てしまう。 インターネットの効率のよさ、っていうのは、とても人文科学的なところがあって、なかなか数字で具体的に図りづらいので、そういうことができてしまう。 ウソがまかり通りやすいのだ。
ところが、エネルギーなんて、結果が明らかに数字で出てしまうので、インチキをやると一発でばれてしまう。 ネット企業の精神がそのまま通じるわけなんかないのだ。 こちらは、どちらかというと、日本企業的な生真面目さが有効な世界のはずで、このハデさが命のネット経営者が転進したところで何も出来るはずがない。
僕にしてみれば、ガヤガヤとうるさいインチキ技術者が居なくなって、作業が手薄になってくれるので、仕事がとてもやり易くなって、とても助かる。もっと大いにジャンジャンやってもらいたい。
◇
「IT産業に見切りをつけた?」
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/it/internet/127652
【The Economist 2008年2月23日号掲載記事について】いま、シリコンバレーで、IT業界で成功を遂げた人々が、クリーン・エネルギー産業へと次々と転身を図っており、大きな話題を呼んでいる。IT産業を立ち上げたノウハウが新しい分野でも機能することのようで、新たなトレンドとなるかもしれない。
こうした動きの先鞭をつけたのは、ドイツのソフトウェア巨人SAP社にいたシャイ・アガシである。長く次期社長と目されていたが、昨年「あと2年間は社長はない」と宣告され、見切りをつけて退社してしまった。早速、新会社を立ち上げ、今年1月にはルノーとイスラエルとの間で大きな契約をとりつけた。炭酸ガスを排出しない電気自動車の生産に取り組むことになったのである。IT産業で培った体系的な思考方法で新しいビジネスの構築を果たしたようだ。(EIS編集長 中村晃生)
こうした動きがさまざまなIT業界のリーダーたちの間で起きている。中には「ITグル」とまで呼ばれているビノド・コスラといったような人物までいる。こうした動きの背景には、「もうインターネットは時代遅れ」との思いもあるのかもしれない。だが、「自分たちの社会的良心を刺激され、巨額の富が入る事が分かっているから」との分析もある。やはり時代を先取りした経営者たちには、次の時代をしっかり見据える傾向があるのだろう。
↓↓本記事↓↓
http://www.eis-world.com/iza/080301.html
ビジネスと環境 Business and the environment
コンピュータのプロが環境の世界へ From geeks to greens
(2008年2月28日 ニューヨーク)
コンピュータ業界から環境技術の業界へと転身する経営者が増えている。彼らは成功するための条件を備えているのだろうか
長年、SAP社の次期トップとみられていたシャイ・アガシ氏は2007年3月に、少なくとも今後2年間は最高経営責任者の地位に就けないと言われ、会社を辞めた。ドイツの巨大ソフトウエア企業のSAP社は、すぐにでもトップの地位を与えるからと翻意を促したが、アガシ氏は思ってもみなかった自由を得たことで目の前に広がった新しい可能性の方が「もっとわくわくする」ことに気がついた。今年1月、アガシ氏は、新会社ベター・プレイス社の最初の契約を発表した。自動車メーカー、ルノー社およびイスラエル政府と提携を結び「イスラエルをガソリン依存から脱却させて」電気自動車への転換を進めるというものだ。
これまでのところ、情報技術(IT)の主力企業を辞めて環境技術企業に転身した経営者の中で、アガシ氏がもっとも位の高い人物だが、彼は決して1人ではない。アガシ氏の他にも、ペイパル社の共同創設者で、現在は新しい電気自動車会社の会長を務めるエロン・マスク氏がいるし、伝説的なベンチャーキャピタリスト、ビノド・コスラ氏もインターネット事業から環境ビジネスに乗り換えた大勢の中の1人だ。シリコンバレーの大手ベンチャー企業、ファウンデーション・キャピタルの共同経営者、アダム・グロッサー氏は言う。「信じられないくらい多くの才能を持つ人々が、伝統的な技術産業から環境技術へと移行しています。彼らは、自分たちの社会的良心を刺激され、さらに巨額な金がもうかることを知っているのです。つまり、資本家としての欲求を満たしながら、自分が正しいという気持ちも同時に満たすことができるのです」。
こうした技術専門家の多くは、同じシリコンバレーの、IT企業の世代継承――パソコンメーカーからソフトウエア会社、そしてインターネット企業の2つの波に至るまで――の影に隠れていたベンチャー企業に採用されている。ファウンデーション・キャピタルと伴に、クライナー・パーキンス、コズラ・ベンチャーズなどの主要なベンチャー企業がいまでは、環境事業に大きな投資をしている。
数十億ドルもの投資に賭ける大きな疑問の1つが、デジタル技術分野で経営者、事業化や投資家として成功を納めたからと言って、それが環境技術でも通用するのかという点だ。ソフトウエア分野の教祖的存在がバイオ燃料に何をもたらすことができるだろう。ガレージで電気自動車を組み立てるような創造的精神が通用するのだろうか。その答えが地球に大きな意味を持つだろう。
コンピューター・メーカー、サンマイクロシステムズ社の共同創設者として財をなしたコズラ氏は、シリコンバレーのモデルが新しい分野でも通用すると信じて疑わない。劇的な変化を実現するには、インターネットの初期に「とてつもなく間抜けな会社」と呼ばれた会社のように、過去からの経験の蓄積に縛られることのないベンチャー企業がもっとも適していると、コズラ氏が信じていることが、その理由だ。
市場リスクが急速に低下し、米国政府までもが、再生可能エネルギーとエネルギー効率への予算を増額するようになったいま、的確な技術を支える仕事がますます必要になっている。ベンチャーキャピタリストであれば、技術リスクについては、たとえそれがどんな業界のものであっても、きちんと理解して、管理することができると、コズラ氏は信じている。従来のエネルギー企業は、例えば探査リスクについては理解しており、そのリスクをとろうとするが、新しい燃料技術への投資については、同じ程度のリスクであっても不安に感じてしまうと、彼は指摘する。「ベンチャーあるいはIT産業の人たちは、ある技術が有効かどうか分からなかったり、設計が完成していなくてもとりあえず開始して走りながら修正して事業を行うことに慣れています」。また、彼らは失敗の確率が高いことにも慣れているが、うまくいった時の見返りが大きいことが期待できるのでバランスがとれるのだ。
「シリコンバレーのコミュニティがほかと大きく異なるのは、あらゆる分野の起業家と力を合わせて、初期段階の事業を形作ることができる能力を持っている点です。」環境関連企業に大金を投資している未公開投資企業、ゼネラル・アトランティック社のビル・フォード氏は指摘する。「シリコンバレーでのキャリアを通じて、技術を基盤とする企業をどのように作り、そして成長させるか学んできました」と語るのは、有害な化学薬品を使わずに水や食品を浄化する事業に特化している企業、ピュアフレッシュ社の最高経営責任者、デビッド・コープ氏だ。彼はこれまで、IBMから、ビズジェニックスというソフトウエア会社に至るまで、さまざまな技術企業で働いてきた。
インターネットはあまりに時代遅れ
アガシ氏は、SAPでの経験から自分がもたらすことができるのは、体系的に考えて問題を解決する能力だという。「私はこれまで大きな問題を小さな問題に切り分けて、その一つ一つを解決し、システム全体の中に再び組み込む方法を学んできました」。アガシ氏によれば、過去の電気自動車事業が失敗してきたのは、体系的なな考え方が欠如していたからだという。彼の解決策は、4つの部分的な対応策を1つにまとめあげた。ルノーは車を作る。ベター・プレイスは消費者が容易に車を充電できるインフラを提供する。投資家はそのインフラに資金を供給する。そして政府はゼロエミッション車を買うすべての人に、多額の減税措置を適用する。イスラエルはこの減税措置を2019年まで続けることを約束している。
事例によってはコンピュータから環境への転身は、必ずしもこれほど大きな飛躍を要するというわけではない。ほとんどのコンピュータ専門家は、もともと科学の分野で経験を積んでいる(マスク氏の場合は、物理学の学位を2日であきらめているが)。太陽光パネルの組み立ては、マイクロチップの組み立てと共通する部分がかなりある。「要するに小型化とシリコンの違いなのです」とフォード氏は言う。「ムーアの法則[訳注:半導体の集積密度は18~24カ月で倍増するという法則]は太陽光発電にも通用する」という彼の考え方が正しければ、この技術の効率性は、予測可能なペースで増大していくはずだ。環境ブームの初期の成功のひとつが、サイプレス・セミコンダクター社から分社した太陽光発電企業、サンパワー社であり、その株価の時価総額はいまや60億ドルあまりにまでなっている。
同様に、エネルギー会社は大規模な供給網を運営する。これもコンピュータの専門家にとっては慣れ親しんだ分野だ。シルバー・スプリング・ネットワーク社の最高経営責任者、スコット・ラング氏はこう語る。「2004年にペロー・システムから移ってきた当時は、エネルギー公益事業体に、ラストマイル問題を解決する技術は存在しませんでした。そこで、電力会社が顧客ともっと効率的に接続されることで大きなチャンスが生まれると、私は考えたのです」。同社は、エネルギー効率を向上させ、需要を管理するために、インターネットの技術を電力網に適用した。「これは典型的なITです」とラング氏は言う。今後15年間に世界中で新たに生じる発電能力需要のおよそ半分は、効率を上げることで満たされると彼は考えている。
環境ビジネスに取り組む技術系の経営者にとって危険性の1つは、「あまりに速い変化を期待しすぎること」だとラング氏は言う。「一夜にして何かが変わることに彼らは慣れていますが、この分野ではもっと時間が必要です」。もう1つ、少なくとも環境関連の新興企業にとって危険性は、初期段階で必要となる資本の額の認識だ。
「投じられる金額は、従来の技術系の新興企業とは天と地ほどの違いがあります」。と言うのは、アップル社をはじめとするシリコンバレーの技術企業で25年の経験を持ち、現在は米国発のセルロース・エタノール工場をジョージア州で建設しているレンジ・フュールズ社を経営するミッチ・マンディッチだ。(同社の構想は、スイッチグラス、木材、農業廃棄物などの植物性素材をバイオ燃料に変えることで、現在の効率性が悪く食料価格を高騰させる、トウモロコシを原料とするエタノール生産によって起こる問題点を克服できるという発想だ)。マンディッチ氏は、ベンチャーキャピタルからの支援以外にも、ニューヨークの投資銀行やヘッジファンドから資金を調達する術を学ばなければならなかった。環境技術関連の新興企業に必要な資金は、500~1000万ドルの規模から、早い段階で脱して5000万~1億ドルになろうとしている。「考えているよりずっと早い段階で規模は拡大していきます」。
この理由からファウンデーション・キャピタル社は、エネルギー利用を改善する企業に投資の的を絞っている。グロッサー氏は、クリーンな燃料を開発しようとする試みは「資本効率が悪い」と言う。「プラントの建設コストに数億ドルもかかる割には高い収益率が見込めないかもしれない」というわけだ。レンジ・フュールズ社をはじめとするクリーン燃料企業に投資しているコズラ氏は異なる意見だ。彼は、「石炭と石油の代替となる」ことで市場での巨大な機会があり、巨額なリスクを正当化することも可能と考えている。
また政府の政策にも注意する必要がある。環境に関する投資ということになれば、公共政策のリスクはテクノロジーリスクと同じくらい重要になる可能性がある。大統領選挙の候補者として残っている3名は、いずれも、連邦政府による強制的なキャップ・アンド・トレード(排出量取引)方式を導入して、米国の二酸化炭素排出量を抑制すると発言しているが、詳細についてはまだまだ議論の余地があり、議会も通過しなければならない。「公共政策リスクの管理は、従来のテクノロジー企業の経営者にとっては必要のないことでしたから、大量に学ばなければならないことがあります」と、クレディスイス銀行の環境ビジネス担当、ダイアナ・グラスマンは言う。
とはいえ、こうした企業は幸先のいいスタートを切った。コズラ氏は、策略にたけたワシントンのやり手としての名声をあっという間に築いている。レンジ・フュールズ社のジョージア州工場は、エネルギー省から、7600万ドルの補助金を得た。さらに、イスラエルのシモン・ペレス大統領、エフード・オルメルト首相との間に強固な関係を築いたコズラ氏は、ベター・プレイス社とイスラエル政府が「100日以内に」別の契約を結ぶだろうと、自信たっぷりに予言している。
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